国民の危機には目を向けず「憲法の危機」と言い募る朝日の護憲社説
◆護憲のオンパレード
「憲法70歳。何がめでたい」。憲法記念日の各紙3日付で印象深かったのは産経だ。1面にこんな見出しを掲げていた。
阿比留瑠比氏(論説委員兼政治部編集委員)が現行憲法の草案は占領下に連合国軍総司令部(GHQ)の若手民政局員らが日本の非武装化・弱体化を狙う意図を込めて短期間で作ったとし、こう言っている。
「(現行憲法を)われわれは後生大事に70年間も神棚に飾って信心し、全く手を触れずにきた。何とも『おめでたい』話であり、とても祝う気にはなれない」
この伝で言えば、「おめでたい」を地で行ったのは朝日だ。3日付には1面とオピニオン面に、計2本の護憲社説を載せた。憲法社説は随時掲載するとし、4、5日付にも続けた。護憲オンパレードで、全く手を触れさせようとしない。ここが他紙の社説や憲法特集と大きく違っていたところだ。
が、祝う気になれないのは阿比留氏と同じらしい。1面社説は「安倍政権の下で、憲法は今、深く傷つけられている。かつてない危機にあると言わざるをえない。…目下の憲法の危機の根底には、戦後日本の歩みを否定する思想がある」と危機を連発している。
改憲を言えば、なぜ現行憲法を傷付け、かつてない危機になるのか、理解し難い。現行憲法は硬性(改憲のハードルが高い)とはいえ、改正条項(96条)を設けている。改憲論議を否定するのは言論弾圧に等しく、憲法が保障する基本的人権を踏みにじる。
◆解釈改憲で平和築く
朝日は「戦後日本の歩み」を強調するが、それを担ったのは、ほかならない改憲を党是とする自民党だった。東西冷戦の厳しい国際環境の中、サンフランシスコ講和条約、自衛隊創立、日米安保条約、有事立法、そして今日の安保法制へと続く、国家存立の取り組みがあったればこそ、平和が築かれた。
それらを朝日はことごとく違憲呼ばわりした。歴代政権はそれを退け、解釈改憲を重ねて繁栄をもたらした。それが戦後日本の歩みの現実だ。
ところが今日、憲法と現実の乖離(かいり)は抜き差しならぬところにまできた。それで国民が危機に陥らないよう憲法が俎上(そじょう)に載せられている。それを国民の危機に目も向けないで、朝日は憲法の危機と言い募る。なるほど「おめでたい」。
4日付「9条の理想を使いこなす」は「9条は日本の資産」とし、「そこに込められた理想を、現実のなかで十分に使いこなす道こそ、日本の平和と社会の安定を確かなものにする」と美文を重ねる。その「資産」をもって北朝鮮の核ミサイル危機をどのように回避すると言うのだろうか。
◆正論が「異論」になる
こうした空想的平和主義に対して佐伯啓思・京大名誉教授は朝日5日付「異論のススメ」で、「憲法9条の矛盾 平和守るため戦わねば」と、朝日論調を見事にひっくり返している。佐伯氏は言う。
「戦争というような非常事態が生じても、あくまで現行憲法の平和主義を貫くべきだ、という意見がある。特に護憲派の人たちはそのようにいう。しかし、今日のような『緊急事態前夜』になってみれば、そもそもの戦後憲法の基本的な立場に無理があったというほかない」
佐伯氏は憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」を受けて9条の非武装平和主義があるとし、「ところが、今日、もはや『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して』いるわけにはいかなくなった。ということは、9条平和主義にもさしたる根拠がなくなるということであろう」とし、さらにこう指摘する。
「護憲派の人たちのいうように、『平和こそは崇高な理念』だとするなら、この崇高な価値を守るためには、その侵害者に対して身命を賭して戦うことは、それこそ『普遍的な政治道徳の法則』ではないだろうか。それどころか、世界中で生じる平和への脅威に対してわれわれは積極的に働きかけるべきではなかろうか」
まさに正論だ。それが朝日では「異論」とされているから、その体質が知れよう。「憲法70歳。何がめでたい」。これが国民の実感だろう。朝日はいつまで「神棚に飾って信心」するつもりか。
(増 記代司)





