ニューズウィーク日本語版が警告する「国際情勢10大リスク」

◆予測不能の即興外交

 週刊誌各誌は連休前に合併号を出しているため、どうも目玉の記事が見当たらない。“文春砲”も“新潮砲”も音がなく、タモリと能町みね子の「満喫大相撲!」(週刊文春5月4・11日号)の対談と特集が和(なご)ませるくらいだ。

 だが、わが国を取り巻く状況は“波高し”である。韓国大統領選の9日は北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)党委員長が就任して5年目となり、韓国で共に民主党の文在寅(ムンジェイン)氏当選が確定すれば、それまで控えていた「核実験」か何かを北が強行するかもしれない。今まで実施しなかったのは北に融和的な文氏の選挙運動を邪魔したくないためと言われている。

 波が高いのは東アジアだけではない。世界中が“おかしく”なっている。ニューズウィーク日本語版(5月2・9日号)は「国際情勢10大リスク」を特集した。「リーダーなき世界が生むリスク」として、北朝鮮、韓国、フランス、欧州、ロシア、中国、イラン、トルコなどを挙げている。

 最大のリスクは何と言っても「トランプ米大統領」だ。同誌はトランプ氏の外交を「即興」と断じた。選挙期間中の発言とは違い、就任後は現実に即した柔軟な外交を展開しているが、これは「強固な信念がない」「予測不能な」「即興的な」もので、「時には戦略どころか現実とも無関係な場合」もあり得るとして警戒する。

 「世界の警察官」から降りて、「米国第一主義」を行動原理にしながらも、シリアへのミサイル攻撃、北朝鮮への軍事的圧力と「警察官」のような行動も展開する。米メディアがトランプ氏に批判的だという点を考慮しても、「即興」「予測不能」との見方は首肯し得る。

◆日米韓の同盟に暗雲

 それからすれば北朝鮮は分かりやすい。核保有国になり、米国と直接交渉をする、という目標を一貫して維持しているからだ。それに対して、政権が代わるごとに、あるいは情勢が変わるごとに、東を向くのか西を向くのか右顧左眄(うこさべん)している韓国とは大違いだ。

 北朝鮮情勢をかき回しているのはトランプ氏であるし、韓国で親北派が大統領に就けば、「北朝鮮経済は息を吹き返し、ICBMすなわち究極の核兵器を手に入れ」ることになるという同誌の指摘は間違ってはいない。

 その韓国について同誌は、「進撃の左派」が同盟関係に暗雲を呼ぶと分析している。軍事情報共有、合同軍事演習の実施などで、辛うじて日本、米国、韓国は協力して北朝鮮問題に対処しているが、韓国の新政権は誰が大統領になろうと、この協力体制にひびを入れてくるだろうと予測する。これも同感だ。

◆破綻迎える国際機関

 同誌が10番目に挙げたのが「国際機関に終わりの日が迫る」ことだ。戦後秩序やシステムは1944年「後に戦勝国となる各国がニューハンプシャー州ブレトンウッズで開いた会議と、ワシントン郊外のダンバートン・オークス邸で行った会議」でつくられた。今その体制とシステムが“耐用年数”が過ぎて綻(ほころ)びが出てきている、という指摘である。

 理由は、第一に超大国アメリカが「世界の警察官」の機能を果たしていないこと、第二に中国が超大国に変貌したこと、第三が戦後経済システム、グローバリゼーションがシステム崩壊の危機に陥ろうとしていることだと同誌は説明する。

 「世界はブロック化し」「世界規模での経済統合は鈍化または停止し、保護主義が台頭し、世界経済の成長率は失速して生活水準は下がるだろう」と予測。そして、「その先に待つのは、より地域的で貧しい世界。変化の速度がより遅く、これまでよりもゆがんだ世界」だという。

 「73年前に形作られた国際体制と組織も、新たな時代の中で滅びの時を迎えようとしている」と記事は結ぶ。悲観的だが、このままでは“予言”通りに進むだろう。

 同誌の10大リスクには各国の政治指導者が登場した。今や世界は「ストロングマン」がしのぎを削る。その中にわが安倍晋三首相の名前はなかった。これは安倍首相が「リスク」ではないからだ。今後を見れば、2020年の憲法改正で新しい世界に対処して行こうというのは正しい方向なのである。

(岩崎 哲)