日銀9年ぶりの景気「拡大」認識に現実的政策へ軌道修正求めた毎日
◆前向きに捉えた読売
日銀が最新の展望リポートで、景気判断を「緩やかな拡大に転じつつある」に引き上げた。「拡大」の表現はリーマン・ショック前の2008年3月以来9年ぶりである。
しかし、その一方で、17年度の消費者物価(生鮮食品を除く)上昇率の見通しは、前年度比1・4%と従来予想(同1・5%)を下方修正し、金融政策は現行の大規模緩和策の維持を決めた。
正直、景気が本当にいいのか、そうでないのか、よく分からない政策判断である。
黒田東彦総裁は先月27日の会見で、好調な生産や輸出を背景に、「潜在成長率をかなり上回るペースで経済が拡大していく」と述べたが、総裁が言う「潜在成長率」は0%台後半。個人消費は相変わらず冴えないから、景気「拡大」の実感が伴わないのも当然と言えば当然か。
日銀の今回の政策判断に社説で論評したのは、日経、毎日、読売の3紙。見出しは次の通りである。日経(先月28日付)「成長力の引き上げ伴う物価上昇めざせ」、毎日(同)「『出口』見えぬ日銀の政策/黒田総裁下で軌道修正を」、読売(1日付)「異次元緩和4年/物価回復の兆しを生かせるか」――。
見出しの通り、経済の「拡大」を前向きに捉(とら)え、それを政策に生かすよう促したのが読売。
読売は、総裁が会見で「経済の需給ギャップの改善が続く中で、物価上昇率は上がっていく」と述べたことに、「持続的な物価回復の入り口に立ったとの認識だろう」と指摘。ただ、消費者物価の上昇率は3カ月連続でプラスだが、その水準は0・2%にとどまり、日銀が目標として掲げる「2%」への道は険しいとして、経済の「好循環」の実現を求め、「そのためには、企業の生産性を向上させ、経済成長力を底上げすることが欠かせない」と強調する。
◆緩和の副作用を懸念
日経も同様。2012年12月に始まった現在の景気拡大局面は戦後3番目の長さになったが、そのテンポは緩やかで、金融政策や財政刺激など政府・日銀の支えに頼っている部分がまだ大きい。成長力を高めるための規制緩和など構造改革は十分とは言えず、「生産性向上による成長力の強化と物価上昇がともに進む好循環をもたらすことが重要」との指摘である。
尤もな指摘だが、既に金融は十分に緩んでいるから、日銀にできることは極めて限られている。読売は円安修正を迫るトランプ米政権の動きや、緊迫の度を増す北朝鮮情勢などを景気の先行き懸念材料として挙げ、政府との緊密な連携が求められるとしたが、それくらいであろう。
それ以上に、気になるのが異次元緩和の副作用である。大規模な金融緩和が実施されて丸4年。読売は「気がかり」として、副作用が広がりつつあることを挙げた。日銀の保有する国債が発行残高の約4割に達し、国債市場が日銀の動静に過敏に反応し、金利が乱高下しやすくなっている。またマイナス金利の影響で、金融機関の収益力も低下。「低金利が預金者の心理的不安につながっているとの厳しい指摘もある」(同紙)と。
◆政策転換に踏み込む
副作用だけでなく、日銀の政策全般に厳しいのは毎日。「現実離れした高い物価目標に固執し、ずるずると異例の金融緩和を続ければ、効果以上に弊害の深刻化が問題となってくる」との懸念である。
同紙の指摘通り、日銀が黒田総裁下の現体制になって以来、物価見通しは常に上ぶれし、時間の経過ととともに下方修正されるパターンを繰り返してきた。「度重なる下方修正は、日銀の信頼を傷つける」(同紙)面もあろう。
もちろん、これには原油市況の世界的軟化という想定外の事象もあったが、同紙も支持した14年4月の消費税増税による経済への悪影響の過小評価という誤りも大きかったことも指摘しておきたい。
毎日の指摘を待つまでもなく、異次元緩和が長期化するほど、正常な金利政策へ戻す「出口」作業は困難を増す。
総裁は会見で出口論には時期尚早との認識を改めて示し、日経、読売もこれには同じ評価を示したが、毎日は「景気認識が久々に改善したというのであれば、より現実的な政策への軌道修正を始める時だ」と、より踏み込んだ主張を載せた。日銀も検討していることは認めているが、実施には慎重かつ賢明さが必要である。
(床井明男)