「養育里親」に同性カップル認定した行政を後押しするLGBT応援報道

◆成り手が少ない里親

 児童虐待が深刻度を増している。全国の児童相談所が対応した虐待件数は2015年度10万件を超えた。25年連続過去最高を更新中で、改善の兆しは見えていない。

 そこで重要度を増しているのが「養育里親」だ。この制度は、虐待などで保護者に養育させることが不適当と認められたり、保護者がいなかったりする18歳までを、家庭で一定期間預かり養育するもの。

 心に傷を負う被虐待児などは、愛情豊かな家庭で養育されることが望ましいことは説明するまでもない。しかし、現実は、その多くは施設で暮らす。養育里親の成り手が少ないからだ。

 このため、里親の成り手を増やすことは、政府・行政の喫緊の課題であることは間違いないが、いくら里親が足りないからとはいえ、同性カップルをそれに認定するのはあまりに軽率すぎる。ところが、大阪市は無謀にも、それをやってしまった。しかも、本紙(14日付社説)を除き、政府や行政の〝暴走〟を監視する役割を担う報道機関で、同市の認定に警鐘を鳴らすどころか、その拡大を後押しする論調が目立つのはどうしたことか。

◆吉村市長の不見識

 大阪市が養育里親に認定したのは40代と30代の男性カップルで、今年2月から10代の男子を預けている。全国で初めてのケースだ。この問題で、朝日新聞は18日付で「男性カップルが養育里親に 固定観念を超え」との解説記事を掲載した。その中で、預けられた男子は「男性カップルの里親だと説明を受け『抵抗感なく納得していた』」としながら、「里親は子どもがいない人のためではなく、子どものために必要な制度。LGBTであるかないかは関係ない」との吉村洋文・大阪市長のコメントを紹介した。

 子供の利益を考えて、大阪市が男子についての情報を公開していないのは理解できるが、まず疑問なのは男子に対して、里親が「男性カップル」であることを市はどう説明し、男子が本当に納得したのだろうか、という点だ。

 大人でさえも、男性同士がカップルになることについて十分理解できる人はどれほどいるのか。さらに、呆(あき)れるのは、吉村市長の不見識。里親が「LGBTであるかないかは関係ない」と決めつけている点だ。

 里親認定について69自治体を調査した毎日新聞は16日付に「東京都 同性カップル除外」「『審査に影響』2割」という記事を掲載した。記事では、同性カップルを明確に里親から除外しているのは東京都だけだが、これは同性カップルが里親になることは想定していないからで、同性カップルを容認しているとするのは曲解であろう。

 それは自治体の担当者の次のコメントがよく示している。「民法で結婚が認められていないなど、まだ社会制度の整備が進んでいない。子どもの受け止め方や成長過程での影響が分からないため、慎重に検討したい」(東京都)、「同性カップルへの社会の理解が十分でないため、ただでさえ難しい子どもとの信頼関係の構築が更に困難になる可能性がある」(滋賀県)。

◆子供のための制度

 現場を預かる担当者たちがこうした意見を持っているのだから、「LGBTは関係ない」と断言する吉村市長の考え方がいかに独善的かが分かるだろう。子供の人生を大きく損なうかも知れない認定を行った行政の責任を厳しく追及すべきどころか、朝日と毎日は、同性カップルを里親に認定することを後押しする専門家のコメントで記事を締めくくるという脳天気ぶり。

 「日本の行政には古い価値観に基づく『里親=夫婦』という固定観念がある。家族は多様化しており、どんな人でも里親になれると伝えたい」(木ノ内博道・NPO法人千葉県里親家庭支援センター理事長=朝日)。

 養育里親は、子供のためのもので、子供がほしい大人のためのものではない。ましてや、LGBTの権利拡大運動として、この問題を利用するのは禁じ手である。里親は夫婦が望ましいとする考え方を「古い価値観」あるいは「固定観念」とレッテル貼りすることの方がよほど危険なのだが、そうしたコメントを暗に記事の結論として掲載するのは、朝日・毎日がLGBT運動を後押ししているからなのだろう。

(森田清策)