シリアでの化学兵器使用で北朝鮮との軍事関係に着目した「新報道」

◆米露対立で情報戦に

 猛毒サリンを用いた化学兵器がシリア北西部のイドリブ県で使用され、トランプ米大統領は「レッドラインを越えた」と批判し、米中首脳会談の最中にシリア空軍基地へのミサイル攻撃に踏み切った。化学兵器による住民殺害、米国のシリアへの軍事力行使、米中首脳会談など、どれ一つとっても重大なテーマだが一挙に重なった。

 情勢が複合した事態の中で、9日放送の報道番組は特集に力が入っていた。その中でフジテレビ「新報道2001」はシリアと北朝鮮の軍事協力を指摘して北朝鮮の化学兵器に警鐘を鳴らし、NHK「日曜討論」は前半にシリア情勢、後半に北朝鮮問題をテーマに識者が議論、TBS「サンデーモーニング」はシリアへの米国のミサイル攻撃に「きな臭くなってきた」(司会・関口宏氏ら)と、反戦的な視点から問題視していた。

 軍事作戦は機密のベールに包まれる。トランプ政権はアサド政権の化学兵器使用に「確証」を得たとして攻撃したが、当のアサド政権やこれを支持するロシアやイランは否定し、一般識者らは検証の手段を有しない。これまでの情勢から推察するしかない。

 例えば、イラク攻撃の際に米国が主張した「大量破壊兵器」は存在しなかったことが引き合いに出されたり、これまでアサド政権のシリアやサダム・フセイン政権時代のイラク(両方ともバース党=アラブ社会主義復興党政権)での化学兵器による虐殺を引き合いに出すなど、テレビを含めたメディアは情報戦、世論戦の舞台になっている。

◆見落とせない北朝鮮

 「新報道」は番組冒頭で「韓国の軍事専門家からシリアと北朝鮮の協力関係を示す映像を入手した。画面には戦闘で死亡したとみられる迷彩服を着用したアジア系兵士の姿が映っている」と映像を流し、「朝鮮人民軍の教官ではないかと推定される」と軍事専門家(韓国国防安保フォーラム首席研究員ヤン・ウク氏)の分析を加えていた。同氏はまた、シリアの化学兵器も「北朝鮮が提供した生産技術や材料によって造られたのではないか」と言う。

 シリアはロシア、イランとの関係が報道されることが多いが、北朝鮮は目立たなかった。そこを番組は、金正恩朝鮮労働党委員長がバース党創建70年にアサド大統領に祝電を送った北朝鮮の「労働新聞」7日付記事や、韓国からスカイプ(インターネットのコミュニケーションツール)で生出演した元北朝鮮女性工作員の元正花氏が、北朝鮮とシリアは武器密輸など深い関係があり、同氏より「格が上の超エリート」の工作員が密輸に当たっているなどの発言から浮かび上がらせた。

 他に龍谷大学教授の李相哲氏が、北朝鮮が世界第3位の化学兵器大国になった背景に日本が敗戦後残していった化学工場などのインフラがあり、1960年代から化学兵器を製造し始めたと解説。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は北朝鮮の軍事顧問が多数シリア入りしていることなどを述べ、元自衛隊情報分析官の西村金一氏は「北朝鮮は17種類の化学剤を持っている。それも2500トンから3000トン」と指摘するなど、化学兵器とシリアと北朝鮮をつなぐ傍証を試みていた。

 つまりはロシアだけでなく北朝鮮もアサド政権への軍事的影響力がある点を見落としてはならないということだろう。サリンによるシリアでの殺戮(さつりく)は、冷戦時代の米ソ対立を彷彿(ほうふつ)させるかのような「史上最低」(トランプ大統領)の米露関係を招いている。

◆「そんなこと」なのか

 ところで、「サンデーモーニング」で中央大学教授の目加田説子氏は、「可哀想な子供の映像を見せられると途端に揺れてしまって、そんなことによって外交が揺れてしまってはいけないわけだから、その辺の不安定さに非常に危ういものを感じた」と述べて、トランプ大統領を批判した。

 ブレない外交を求めたとしても、これまでシリア内戦で犠牲になった子供らの悲惨さを何度も強調してきた同番組でこう聞くと、サリンで犠牲になった子供や赤ちゃんに対して「そんなこと」とは、実につれない印象である。外交上の認識を改めることはあり得るはずだ。トランプ大統領の場合はシリアで化学兵器が使用されたことだった。

(窪田伸雄)