大震災6年で脱原発の発言ばかり取り上げたTBS「サンモニ」
◆難問山積の事故処理
東日本大震災から6年――。12日放送のNHK「日曜討論」で内堀雅雄福島県知事が福島の状況の「光」と「影」について、「光」は「復興が進む明るい部分」で、インフラ復旧、拠点整備の進展、観光地のにぎわいの回復、農産物の輸出の拡大、若者の活躍など、「影」は「福島第1原発の廃炉対策の問題」などを指摘していた。
確かに地震、津波からの復旧・復興は、宮城県、岩手県など他の被災地を含め、励ましの声援を加えながら明るいニュースとして取り上げられる話題も多くなった。一方、原発事故処理については難題山積の上、いまだに見通しが立たない。当初から数十年掛かると言われており、6年の間に計画は「延期」が続き、経産省は昨年12月に廃炉や賠償など事故対応予算の試算を11兆円から21・5兆円に倍増した。
「フクシマ」の地名が世界に知れ渡ったのは、大震災よりも津波による原発災害によってだったが、この6年の間に世界では脱原発の流れが進み、それにもかかわらず政府は原発再稼働をしているという捉え方をしていたのは、同日放送のTBS「サンデーモーニング」だった。
海外の動きを追った部分では、福島第1原発事故の後、原発ビジネスは激変したとして、東芝の子会社・米原子力会社ウェスチングハウスの巨額損失を受けた東芝の経営難、仏原子力会社アレバの経営難、台湾立法院(国会)の2025年までの脱原発法可決、独シーメンスの原発事業撤退などを列挙した。
◆発言の出所を示さず
加えて鬼の首を取ったかのように海外専門家の発言を映し出した。「一般的に言って原子力産業は苦境に陥っています。共通した大きな原因は原子力の未来を楽観的に予測し過ぎたことです」(エネルギー原子力政策コンサルタント、マイケル・シュナイダー氏)。「アメリカでも原子力ルネサンス(原子力復権)を信じていた人は(東芝の経営危機は)大変ショックでした」(憂慮する科学者同盟=UCS、エドウィン・ライマン博士)。
番組では民進党の蓮舫代表が、「2030年原発ゼロ」を党大会で表明しようとしたのを労組・連合の反発で断念したことも取り上げた。これに関連し、小泉純一郎元首相が「電力関係の労働組合の票は多くて50万票です。50万の票が欲しいため500万以上ある国民の声を聞いていないのが今の民進党だと思う」と語るシーンを流した。
これらの発言は番組の流れに納得がいくよう添えられたものだろう。ただ、どこでどのような場での発言かは示されていなかった。映像を手掛かりに調べると、シュナイダー氏とライマン博士の発言は、2月24日に東京・渋谷区内の国連大学で開かれた「Japan PuPo 2017―日米原子力協力協定と日本のプルトニウム政策国際会議」でのもの。会議は民間非営利団体(NPO)「原子力資料情報室」と米国のUCSとの共催だが、番組では「原子力資料情報室」の情報が抜け落ちていた。「原子力に頼らない社会を実現するために活動している団体」(HPより)で、反核反原発運動といろいろ連携している。
小泉元首相の発言は、2月16日に東京・渋谷区内の劇場で行われたドキュメンタリー映画「日本と再生 光と風のギガワット作戦」の完成披露試写会での一場面だ。この映画の監督は弁護士・河合弘之氏で、各地で原発差し止め訴訟を起こしている「脱原発弁護団全国連絡会」の共同代表である。この情報もまた抜け落ちていた。
◆全面停止は日本だけ
映画が推奨する再生可能エネルギーの活用は、政府(経産省)のエネルギー・ミックス政策にも盛り込まれている(2030年で22~24%)が、ここから原発(同、20~22%)を無くそうという人たちの会合や運動での発言だけを取り上げるのは、放送法第4条の特に第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に照らしていかがなものか。安全性を保って活用する利益を説く出演者はスタジオにはいなかった。
東芝、アレバなど原発事業の不振は事実だが、これは安全基準の強化で原発建設予算が膨張し、受注が中止になったり延期になったりしたビジネス要因だ。しかし、再稼働は新規建設ではない。事故の後、世界各国が原発を一斉に止めているなら、再稼働は逆行と言い得るが、原発を全て止めたのは日本だけ。事故後も安全が保たれる原発は稼働しているのが世界の標準だ。
(窪田伸雄)





