「司法のエリート」弁護士業界の環境・事情の変遷を特集した2誌

◆合格者増え競争激化

 わが国で3大国家資格といえば、弁護士、公認会計士、不動産鑑定士と言われてきた。もっともこれは俗説であって明確な根拠があるわけでなく、医師、弁護士、公認会計士と言われることもある。とにかくどれも超難関の国家試験に合格しなければなれないことは確かで、どのような組み合わせであろうとその中に必ず弁護士が入っている。まさに弁護士は「国家資格の雄」といっても過言ではない。ところが近年、その「司法のエリート」ともいうべき弁護士を取り巻く環境が大きく変わってきている。

 そんな弁護士の環境・事情の変化を経済2誌が特集した。一つは週刊ダイヤモンド2月25日号の「弁護士 裁判官 検察官」。もう一つが週刊エコノミスト2月28日号の「弁護士ガチンコVS会計士、司法書士」である。前者の副題には、「司法エリートの没落」、後者には「聖域失い敵陣で戦うサムライ業」とあるように、ダイヤモンドは弁護士をはじめとして検察官や裁判官といった法曹界に焦点を当て、エコノミストはこれまで、それぞれ棲(す)み分けて業務を行ってきた弁護士、会計士、司法書士の領域に弁護士が見境なく参入し混乱している様子を描き出した。

 そもそも弁護士業が変容してきた背景には、司法制度改革による新司法試験制度が始まったことで合格者が増加し、弁護士が法曹界に大量に供給されたことがある。2001年当時2万人強だった弁護士は、15年には4万人を超え、48年には7万人に達するという予測まである。弁護士が増えれば当然、競争激化が進む。弁護士の増加に伴って裁判件数が増えれば弁護士収入は安定していくが、裁判件数は急激に増加するわけでもない。結局、生き残りを懸けて競争の渦に入るか、他の領域に進出するしかない。とにかく、かつてのように弁護士資格を持っていればもうかるという業界ではなくなった。

 「(大手の法律事務所では)少ない時でも(労働時間は月)250時間、多い時は330時間くらい働いた」(ダイヤモンド)。「難関の司法試験を突破したエリートの中でも、さらに優秀な者だけが門をくぐることの許される大手法律事務所。その内部には過重労働が常態化し、エリート弁護士が過酷な生存競争にさらされる現実があるのだ」(同)とあるように弁護士はもはや華麗な職業ではなくなっているのである。もっとも、それは昨今のバラエティー番組に弁護士がレギュラーで出演している姿を見ればおのずと理解できるというもの。

◆チャイナリスク指摘

 ところで、今回の特集号で目を引いたのが、エコノミストの「会計監査の『チャイナリスク』子会社資料に国家機密の壁」と見出しの付いた記事である。内容的には、中国に子会社を持つ日本の企業で、その子会社の監査資料を得ようとしても中国が「国家機密」を理由に、親会社の監査法人のアクセスを制限する法令がここ数年、相次いで出されているという点を指摘している。

 例えば、福井県に本社を置き、合成樹脂や電磁材料を扱っていた老舗企業の江守グループホールディングスが中国に子会社を置いて取引を進めていたが、その子会社で不正会計が発覚し、結局15年5月に本社の江守グループが経営破綻に追い込まれたことを紹介、「親会社が子会社の正確な監査資料を入手することができなければ、実態を知ることが困難となる。こうした事態は連結財務諸表の信頼性を根本から揺るがす恐れがある」と指摘する。

 確かに、日本企業にとって中国子会社の監査資料が「国家機密かどうか」を中国政府の“腹一つ”の判断でなされるのであれば、たまったものではないだろう。くしくも中国では人権派と呼ばれる弁護士が政府当局によって拉致されたり、突然疾走したりする事件報道をよく見掛ける。一見すれば経済台頭華やかなりし中国だが、その内情は、自由主義経済とは程遠い状況になっているのであろう。

◆日弁連には言及せず

 ところで、今回の経済2誌の特集は弁護士を中心とした計画ではあったものの、日本弁護士会(日弁連)について詳しい言及がなかったのは何故(なぜ)だろうか。ダイヤモンドが「センセイたちの知られざるホンネ」として、「弁護士会ってどんな組織?」との問いに、「ビジネス重視の弁護士は、ほとんど委員会活動をしない」「日弁連はちょっとKY。団塊世代の反権力思想が強すぎ。サイレントマジョリティーは完全に日弁連の意見とは違うよ」との現役弁護士の意見をほんの少し載せているにすぎなかった。

 ちなみに昨年10月、日弁連が20年度までの死刑制度の廃止・終身刑導入検討を宣言した。その決定に対して、「全ての弁護士が日弁連と同じ考えではない」とある弁護士グループがいたが、日弁連の委員会執行部と会員との間に大きな乖離(かいり)があるようだ。そうした日弁連の内部事情にも大きなメスを入れればより面白い特集になったと思われる。

(湯朝 肇)