北への圧力や敵基地攻撃を議論の俎上に載せたNHK「日曜討論」

◆世界を驚かせた暗殺

 トランプ米大統領と安倍晋三首相との日米首脳会談、北朝鮮の中距離弾道ミサイル発射、クアラルンプール国際空港での金正男氏殺害―と、10~13日のうちにトップニュースが入れ替わった。

 故金正日総書記の長男で金正恩委員長の異母兄・正男氏殺害事件は、実行犯がベトナムとインドネシアの若い女性で猛毒を使用した手口、わずか2秒の犯行、逃亡した北朝鮮人、仰向けに倒れて意識不明の正男氏などを防犯カメラが捉え、その映像がテレビ報道をにぎわした。痕跡を残さないはずの“謀略殺人の通念”を覆す空港でのあからさまな犯行だったこともあり、北朝鮮の独裁者・正恩氏の意図を探る専門家らの謎解きも盛んである。

 当初から「濃厚」と言われたように正恩氏の指示なら、身内の犯行でもある。恐怖支配、中世的な時代錯誤、陰惨な世襲体制、狂気の粛清といった印象を世界に発信しており、これが核開発や弾道ミサイル発射による威嚇効果をも強めていると言えるだろう。

◆自民は検討に前向き

 そこへ、19日に放送されたNHK「日曜討論」は、北朝鮮への「圧力」や「敵基地攻撃」を政治家を呼んでの議論の俎上(そじょうに載せた。テーマは「与野党に問う日米同盟・北朝鮮」で、自民党副総裁・高村正彦氏、民進党代表代行・江田憲司氏、公明党代表・山口那津男氏、共産党委員長・志位和夫氏、日本維新の会共同代表・片山虎之助氏が出席。

 主に安倍首相とトランプ大統領の初会談について議論したものだったが、12日の弾道ミサイル発射、13日の金正男氏殺害など北朝鮮問題の中で、司会の太田真嗣NHK解説委員が高村氏に「国会の議論でミサイル迎撃だけでなく、発射基地自体を攻撃する議論があったが、自民党はどう考えるのか」と質問を向けた。

 高村氏は、「敵基地攻撃能力を持つことは憲法には違反しない。ただ現時点で自衛隊はそういう装備体系は持っていない。だから持った方が良いという議論はずっとある。政府内で具体的な検討を開始するかどうかというような検討はしていいことだと思う」と、やや曖昧ながら前向きに返答した。

 これに共産・志位氏は、「絶対に採るべきではない」と反対し、「外交交渉の中で非核化を迫るという方針を採るべきだ」と主張。

 公明・山口氏は「従来、敵基地攻撃能力は米国しか持っていない。日本にそうした攻撃能力を検討する計画はない中で、ミサイル防衛システムをどう日本にふさわしいものにしていくか、役割分担を連携させていく」と語り、攻撃を米国に委ねる従来通りの日米安保体制を確認。安保理決議違反には「包囲網をしっかりして外交的解決を目指す」と述べた。

 民進・江田氏は「対話と圧力の圧力の面をもう少しかけないといけない」と訴え、例として「直接的な軍事オプションでなくても朝鮮半島近辺の軍事演習の頻度を拡大するとか、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備など」を挙げた。

 維新・片山氏は敵基地攻撃能力について「昔から議論になり、憲法含めていろいろ問題があるが、検討を始めてもいい。検討を始めることが圧力になるかもしれない」と理解を示した。

◆現実となる北の脅威

 「外交的解決」論について、高村氏は「中国と米国が本気でやって恐れる状態ができないと、外交的解決はあり得ない」と反論した。実際その通りだろう。米国がW・ブッシュ政権当時のヒル国務次官補による外交交渉で北朝鮮は2008年に寧辺の原子炉冷却塔爆破を演じたが、金融制裁解除、エネルギー支援、テロ支援国家指定解除など大きく譲歩する取引があった。それでも北朝鮮は裏をかいて核・ミサイル開発を進めていたのだ。焦点は「圧力」の内容になる。

 敵基地攻撃の「昔から」「ずっとある」議論は、保守合同による自民党結党当時からのものだ。鳩山一郎首相(自民党初代総裁)が1961年に「他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきもの」と衆院内閣委員会で答弁した(船田元・防衛庁長官が代読)。

 現在、NHKの討論で敵基地攻撃が議論になり、実際に検討しようとの認識が自民・維新にあるのも、北朝鮮の脅威が現実に高まっているからに外ならない。中国を動かすために日米が本腰を入れ、日本は敵基地攻撃能力の検討、研究に入るべきだろう。

(窪田伸雄)