今回のGDPも保守系紙だけの論評、なぜかリベラル3紙は言及なし

◆楽観的な見方の日経

 内閣府が発表した2016年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0・2%増、年率換算では1・0%増で4四半期連続のプラス成長だった。

 これを論評に取り上げた社説の見出しを挙げると、次の通り。14日付日経「底堅い景気にも楽観は禁物だ」、同産経「GDP1%増/企業不安拭う経済対話を」、16日付本紙「10~12月GDP/自律的な拡大には程遠い」、18日付読売「GDPプラス/外需主導リスクに注意が要る」――。

 なぜか、論評は日経や産経、読売など保守系紙だけで、朝日、毎日、東京のリベラル3紙は、7~9月期GDPの発表時と同様、言及はなし。北朝鮮のミサイル発射や金正男氏暗殺事件、トランプ政権の動向、国内でも共謀罪審議やPKO日報、決算発表見送りの東芝など事件や問題に事欠かないこともあってか、この3紙に景気問題はあまり関心を引かなかったようである。

 さて、4紙の論評だが、景気の現状を「底堅い」とみたのは日経だけで、「景気は緩やかな回復基調が続いている」という政府の認識に「違和感はない」とする。他紙が産経「外需頼みで景気回復をかろうじて維持した印象」、本紙「経済の好循環による自律的拡大には程遠い」、読売「緩やかな回復が続いているが、力強さは感じられない」と慎重あるいは厳しい見方をしているのに比べ楽観的である。

◆内需の底上げを強調

 日経が「底堅い」と見るのは、日本経済の実力を示す潜在成長率が0%台半ばから後半といわれる中で、「これを上回った」からである。具体的には「けん引役は企業部門だ」として、輸出で米国や中国向けの自動車や電子部品などが堅調に推移し、設備投資も前期比プラスに転じたと評価。先行きの生産も増勢を保つとの予測が多いとして、「企業部門を下支え役とした日本経済には一定の底堅さがある」との認識である。

 もちろん、見出しにある通り、日経も「楽観は禁物だ」として、政府に対し、規制改革を含む構造改革を加速しなければならないと注文を付ける。「企業統治のさらなる強化や、柔軟で多様な働き方がしやすくなる改革、外国人材の受け入れ拡大を積極的に進め、日本経済の潜在力を高める環境づくりを急ぐ必要がある」というわけだが、これは今後についての話しである。

 これに対して、例えば、産経は「4四半期連続のプラス成長といっても、景気の足取りに力強さはみられない。むしろ、日本経済の脆弱(ぜいじゃく)さの証左といえないか」と慎重である。さらに、トランプ米政権の保護主義的傾向で世界経済の不確実性が一段と高まったとして、「ここで企業や家計が委縮すれば、民需主導の自律的な景気回復はますます遠のこう」と懸念を深める。

 本紙は、日米首脳会談で合意した経済対話の成り行き次第では日本企業の輸出に影響を与える可能性も否定できないとして、「外需頼みの成長がいつまで続くかは不透明である」と指摘。読売も「外需頼みの成長にはリスクもある」として、「持続的な安定成長へ、消費を中心にした内需の底上げが急がれる」と強調するのである。

 日経は今回の社説で、他紙と同様の懸念を示してはいる。トランプ大統領が保護主義的な政策を進めれば、米国向けを中心に、今回の成長を牽引した輸出は下振れする可能性があること、内需の柱である個人消費が力強さを欠き、家計部門も不安が残ること、雇用者報酬が前期比横ばいになったこと、などである。

◆「底堅い」と言えるか

 どうすべきかという対策についても、日経と他紙に大差はない。日経が記す「余力のある日本企業は攻めの投資を進めつつ、賃金や配当の形で家計にしっかりと還元してほしい」は、他紙が求める消費喚起への賃上げ要請である。規制改革の加速も、「新産業育成につながる」(読売)などと内容的にはほぼ同様である。

 日経と他紙との違いは景気の現状認識の表現方法ということになる。ただ、1%成長でかつ、消費が力強さを欠き、輸出に牽引されて設備投資がわずかに伸びた現状を「底堅い」と言えるのかどうか。それは同紙が積極的に主張し支持した14年4月の消費税増税以降低迷から脱することができない内需の弱さを認めたくないからなのか、如何(いかが)。

(床井明男)