左翼系人物を使い「テロ等準備罪」を治安維持法と同列に置く朝、毎

◆理性欠く記事溢れる

 安保関連法を「戦争法」と名付けて左派メディアが猛反対したことは記憶に新しいが、今度は「治安維持法」のレッテル貼りだ。恣意(しい)的かつ理性を欠く記事が新聞に溢れている。「テロ等準備罪」を新設する法案についてだ。

 朝日は17日付1面トップで「『共謀罪』一般人対象の余地」との見出しで、法務省が「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合は、処罰の対象になる」との見解を明らかにしたと報じ、「これまで政府は、『一般の市民は対象にならない』としてきたが、捜査当局の解釈や裁量によっては対象になることが明らかになった」と、まるで鬼の首を取ったかのように書いた。

 呆(あき)れた報道だ。17日の衆院予算委で安倍首相は「犯罪の実行である団体を取り締まり対象とするのは、国民の生命や財産をテロから守るうえで当然だ。そもそもの目的が正常でも、一変した段階で組織的犯罪集団と認めるのは当然のことだ」と述べ、かつての「オウム真理教」の例を挙げ、「まさに犯罪集団に一変した段階で、その人たちは一般人なのか。一般人であるわけがない」と反論している(毎日18日付)。

 オウム真理教は「金正男殺害」にも使われたとみられるVXガスを製造し、殺人事件を引き起こした。宗教団体からテロ集団に一変したわけで、その時点で取り締まれば、地下鉄サリン事件を防げた。

 こんな団体は「一般人」とは言い難い。だから見解は「一般人対象の余地なし」とすべきだが、それを朝日は「一般人対象の余地」と逆にするのだから捏造(ねつぞう)に等しい。

◆「対象広がる」と布石

 これには布石がある。朝日は1日付から「教えて!『共謀罪』」と題する8回シリーズを組み、第7回では「治安維持法のような拡大解釈の恐れは?」(10日付)とし、治安維持法とテロ等準備罪の政府答弁の比較一覧表を掲載。一般人について「無辜(むこ)の民にまで及ぼすという如(ごと)きことのないように」(1925年、小川司法相)、「一般の方々がその対象となることはあり得ないことがより明確になるよう検討している」(2月、安倍首相)を並べ、治安維持法には「→拡大解釈&法改正で対象広がる」、テロ等準備罪には「→?」として、あたかも対象が広がるかのように見せかけた。

 記事には「一般人は対象でないという今回の政府の説明は、治安維持法制定時の政府の言い分とそっくりだ」との海渡雄一弁護士のコメントがある。海渡氏は日本弁護士連合会で共謀罪法案対策本部の副本部長を務めるが、社民党の福島瑞穂副党首の「夫」(夫婦同姓に反対し籍を入れず)で、左翼勢力の弁護人として知られ、極左集団、中核派との関わりが噂される人物だ。

 朝日は12日付「ひもとく」(テーマ書評欄)にも海渡氏を登場させ、反共謀罪の出版物を紹介させている。ここでも海渡氏は治安維持法を持ち出し、「(テロ等準備罪を拡大適用しない)政府の言明は簡単に信用するわけにはいかない」と述べている。

◆戦前とは違う刑訴法

 毎日も同様だ。2日付夕刊「特集ワイド」は「犯罪対象拡大の歴史に学べ」と絶叫調で「戦前の治安維持法は社会運動を抑圧」との見出しを躍らせる。ここに登場するのは劇作家のふじたあさや氏。戦前の横浜事件で検挙された中央公論元編集長の故・藤田親昌(ちかまさ)氏の子息で、「慰安婦劇」を韓国で上演するほどの左翼活動家だ。

 こんな具合に両紙は左翼系人物ばかりを使って治安維持法とテロ等準備罪を同列に置く。だが、これは根本からおかしい。戦前と現在の日本は憲法も政治体制も違っているからだ。

 例えば、戦前の旧刑事訴訟法では令状なしの捜査も認められていたため人権侵害が起きたが、現行の刑訴法では強制処分法定主義、令状主義の原則のもと捜査段階での身柄拘束や捜査押収活動が厳しく規制されている。

 テロ等準備罪も「裁判所による審査が機能しており、捜査機関による恣意的な運用はできない」(金田勝年法相)。それを治安維持法と同列に置くのはそれこそ恣意的だ。拡大解釈、法改正まで言い出すのは勝手な推測にすぎない。左派メディアの拡大解釈の方がよっぽど怖い。

(増 記代司)