トランプ氏のパレスチナ政策「軌道修正」で失望伝えるイスラエル紙
◆就任前は入植を容認
米政権がイスラエルの入植活動に関する政策の転換とも取れる方針を明らかにし、波紋を呼んでいる。トランプ大統領は選挙戦当時から親イスラエル色を鮮明にし、米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を表明、パレスチナとの和平交渉への直接的な干渉をしないことも明らかにしてきた。
イスラエルが「首都」とするエルサレムへの大使館の移転は、1990年代に米議会が決定しながら、「安全保障上の懸念」などから、歴代大統領が先延ばししてきた。そのため、移転公約は、トランプ政権の親イスラエルぶりを象徴するものとしてイスラエルは歓迎、一方のパレスチナ、アラブ諸国からは強い非難を受けている。矢継ぎ早に公約の実施を進めているトランプ氏だが、大使館移転に関しては保留となったままだ。
オバマ前大統領は、入植活動に反対、そのため米イスラエル関係は冷え切っていた。トランプ氏は、オバマ前政権の政策からの転換を進めており、ネタニヤフ首相率いる右派政権を中心にイスラエルの右派の間で、トランプ政権が入植活動を支援するのではないかという期待が高まったのも無理もない。トランプ氏自身も就任前から、入植を容認する発言をしていた。
◆拡大には反対の姿勢
イスラエル紙ハーレツは、米政府の新方針について、イスラエル右派は「驚きと失望」をもって受け止めていると報じた。トランプ大統領の就任は「(イスラエルとパレスチナの)二国家共存の終わりを意味し、イスラエルの入植拡大を米政府が無条件に支持する新時代に向かう」との期待があったからだ。中道左派で野党・労働党寄りとされるハーレツとしては、してやったりというところか。
米政府の声明は、右派の期待にくぎを刺すものであり、従来通り、米国は二国家共存を支持し、入植拡大など和平合意への障害となる活動には反対するというもの。そこに右派の期待した「新時代」は見いだせない。
声明は、入植拡大は「和平を達成する上で有益にならないかもしれない」とした上で、「入植地の存在は和平への障害とならないと考える」としている。つまり、既存の入植地は認めるが、拡大には反対するというスタンスだ。
ハーレツは「過去50年間、全ての米政権は、(和平への悪影響の懸念から)入植地の拡大に反対してきた」と指摘する。50年前というのは、第3次中東戦争でヨルダン川西岸をイスラエルが占領した年だ。
ハーレツは、トランプ政権のイスラエル・パレスチナ政策はジョージ・W・ブッシュ元大統領に似たものになると予測している。
同紙によると、ブッシュ氏は2004年に、当時のシャロン首相に宛てた書簡で「将来のいかなる和平合意も『現地の新しい現実』が考慮されるべきであり、『最終的地位交渉の結果、1949年の停戦ラインに完全に戻ることを期待するのは非現実的』」と指摘している。
これは米国とイスラエルで、米政府が「入植地ブロック」内での建設を承認したと一部で受け止められている。ハーレツによると、この入植地ブロックとは「1967年の境界線に比較的近く、和平合意でイスラエルの領土となる可能性のある大規模な入植地」であり、ヨルダン川西岸の一部はイスラエル領となることを前提とした入植活動であることを意味する。
◆住宅大増設に危機感
トランプ政権がここにきて、入植活動で「予想外の軌道修正」(ニューヨーク・タイムズ紙)をしたのは、トランプ氏就任後、イスラエル政府が5500戸もの大規模な入植住宅増設を発表したことに危機感を抱いたためだろう。
一方、イスラエルのニュースサイト「タイムズ・オブ・イスラエル」は、トランプ氏は「イスラエルに関して以外は」次々と大統領令を出し、公約を実行に移しているとトランプ政権のイスラエル政策を牽制(けんせい)している。
同サイトは「トランプ氏が『新時代』を開くと考えたイスラエル人は、その公約をどの程度、真剣に受け取るべきで、どの程度文字通りにとらえるべきでないか考え始めることになる」とトランプ政権の今後のイスラエル政策に疑問を呈している。
イスラエルのネタニヤフ首相は15日にトランプ氏と会談する。早くもイスラエル政策で修正を迫られたトランプ政権が今後、どのような対応を取るのかが、中東和平の行方を左右する。
(本田隆文)