共謀罪創設法案阻止へ世論を煽るテレ朝「報ステ」TBS「サンモニ」

◆テロ防止へ成立必要

 通常国会が20日から始まった。天皇陛下の退位をめぐる法案や文部科学省の天下りあっせん問題、働き方改革と合わせて今国会の論戦のテーマの一つとなっているのが、「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案だ。共謀罪創設法案は、これまで野党の反対で3度、廃案になっている。

 共謀罪についての国内法の整備は、政府が2000年に署名した国際組織犯罪防止条約締結の条件になっているだけでなく、20年の東京五輪に向け、テロへの備えを強化するためにも、早期に成立させることが必要だが、野党や一部メディアは、「一般の人が処罰の対象になる」などと煽(あお)り、法案阻止の姿勢を見せている。

 26日のテレビ朝日の「報道ステーション」では、同日の衆院予算委員会で行われた安倍晋三首相と民進党の山尾志桜里議員の同法案をめぐる論戦を取り上げた。番組では、安倍首相が、同法案について、下見に行くなどの準備行為が必要になるなど要件を厳格化したと主張したのに対し、「準備行為に加わらなくても罪に問われるケースがありそう」だと指摘し、山尾氏の「例えば、10人の者が飛行機をハイジャックする計画をして、1人がチケットを買ったら、他の9人は準備行為に加わっていなくても検挙の対象になる」とする発言を紹介した。同法案が以前の共謀罪と変わっていないと印象付けるものだが、常識的に考えれば、ハイジャックを計画した者を検挙せずに野放しにする方が危険だろう。

◆左派系弁護士を起用《小見出し》

 続いて「共謀罪に反対している専門家」として出演したのが日弁連の共謀罪法案対策本部副本部長の海渡雄一弁護士だった。テロ組織が化学薬品による大量殺人を計画し、原料の一部を買った場合、現行法では罪に問えないため同法案が必要だとする政府について、海渡氏は「塩素が入った洗剤を買ったというのは、普通の人もやる行為。だから、それ自体が危険でない行為であっても検挙することが、この共謀罪の目的だろう」と決め付けた。しかし、同法案の対象となるのは「組織的犯罪集団」だ。そういった犯罪組織と何の関わりもなく暮らしている一般の人が、塩素入りの洗剤を買っただけで検挙の対象になることは考えられない。

 海渡氏については、昨年9月6日付本欄で増記代司氏が「それこそ共謀罪の対象団体と思われる極左過激派の支援弁護士として知られる人物」と指摘している。番組では、こういった左派系弁護士の海渡氏に反対論を語らせる一方、賛成派の専門家の意見はなかった。このため、犠牲者を出す前にテロを封じ込めるという視点が欠如し、「乱用による人権侵害」の危険性ばかりが強調される内容だった。

◆「国家は悪」との思想

 「報ステ」以上に共謀罪への反対姿勢を明確にしていたのが15日のTBS「サンデーモーニング」だった。番組では、意見を述べた4人の出演者が口をそろえて法案に批判的な意見を述べたが、「戦争という危険を犯さないためにどうすればいいかというのが一番大きなセキュリティー問題」(田中優子・法政大学総長)と述べるなど、的外れな指摘が多かった。中でも毎日新聞特別編集委員の岸井成格氏は「共謀しているというだけで実際に実行していない。それでも相談したとか、そのための資金を手に入れただけで処罰されるのが共謀罪。基本的人権が侵害されたり、抑圧される大きな危険性を持っている」と述べた。テロを計画し準備することを容認するかのような発言だが、実際にテロが起きてからでは遅い。

 こうした反対派は、世界各地に広がりつつあるテロの脅威に対する警戒心は薄いが、一方で秘密保護法や憲法改正に緊急事態条項を盛り込むという話になると過剰反応するのが常だ。「国家は悪」というイデオロギーに執着する勢力がいまだに存在していることが、安全保障や治安改善に関して建設的な議論を難しくしている。

 テロ対策のためには、同法案の他に情報機関創設の必要性なども指摘されている。一部の極端な見方に振り回されず、国際社会と連携しながら着実に法の整備を進めていくことが大切だ。

(山崎洋介)