トランプ大統領就任演説に「米国第一」では繁栄失うと批判した各紙

◆論調は軒並み厳しい

 ドナルド・トランプ氏が第45代米大統領に就任した。演説では「米国第一」を宣言し、国益を重視する姿勢を改めて鮮明にした。

 トランプ新政権のスタートに対し、各紙社説の論調は軒並み厳しいものになった。22日付(毎日のみ23日)の見出しは次の通りである。

 読売「価値観と現実を無視した演説/『米国第一』では安定と繁栄失う」、朝日「内向き超大国を憂う」、毎日「米政権と世界経済/繁栄の基盤を壊すのか」、産経「世界にどう向き合うのか/自由貿易を日本は働きかけよ」、日経「『米国第一』を世界に拡散させるな」、東京「建国の精神を忘れるな/トランプ米政権船出」、本紙「『米国第一』で繁栄できるか」――。

 選挙戦期間中の発言ならともかく、大統領としては各紙の批判通り、問題少なからぬ発言である。本来なら、リベラルな民主党のオバマ政権から保守的な共和党政権の誕生に対して歓迎の論調で迎えるはずの読売、産経など保守系の新聞でさえ、前述のような見出しの付く社説である。

 読売社説は、冒頭「新たな指導者を迎える高揚感には程遠い。米国の内外で、多くの人々が不安に包まれた」で始まり、その理由を「国際秩序と世界経済の先行きの危うさが懸念される船出となったからだろう」と指摘した。

◆危うい恫喝的な手法

 小欄では、紙幅に限りもあるため、経済的側面に絞るが、世界経済の先行き不安は、読売に限らず、各紙が言及した。特に問題なのは、「米国第一」主義の具体策として表明した「米国製品を買い、米国人を雇う」という原則である。読売は「海外からの製品や労働者の流入を拒絶する露骨な保護主義である」と強く批判したが、同感である。

 同紙はまた、トランプ大統領が、経済のグローバル化を念頭に、「我々は米国の産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきた」という見解を示したことに、「事実誤認も甚だしい」とし「国際分業が進み、相互依存が強まった現実を無視したもの」と批判したが、その通りであろう。

 各紙が指摘する通り、保護主義は米国の投資環境の悪化や生産性の低下を招き、米産業の競争力強化には結びつかない。逆に物価高になり、米国民は高いものを買わされ、雇用の増加や所得の向上にも必ずしも結び付かない。

 何より、戦後、関税や規制を減らし、自由化を主導し世界貿易の発展を主導してきたのが米国である。毎日は「トランプ新政権が推進しようとしている米国第一主義は、そうした戦後、米国主導で構築された秩序や枠組みを破壊する力になりはしないか。懸念せずにはいられない」としたが、これまた同感である。

 日経も、「すべての国が国益に固執したら、行き着く先は国際紛争だ」と懸念し、「トランプ新大統領が掲げる自国第一主義が世界を覆い尽すことのないよう、協調の輪を広げることが大切だ」と説く。

 前回の小欄でも指摘したが、一国の、しかも衰えたとはいえ、世界一の経済大国の大統領にそうした認識がないというのは、どうしても考えにくい。分かっていて敢(あ)えてそうするというビジネス的手法の延長なのか。大統領就任前、日米の自動車メーカーに対しツイッター投稿で見せた恫喝(どうかつ)的な手法は、丁々発止の外交駆け引きにおいては有効な面もあり、一概に悪いとは思わないが、実に危うい。

◆根底の認識に迫らず

 各紙社説は、結びで「日本政府は、新政権に対し、日本の投資が米国の雇用増を生んでいることやTPP(環太平洋連携協定)の意義、日米同盟強化の重要性を粘り強く説明せねばならない」(読売)などと強調したが、トランプ大統領は23日にTPPから離脱する大統領令に署名。日本や中国の市場は閉鎖的だとも批判した。

 トランプ大統領の就任演説や批判発言の根底に、どんな認識があるのか。今回の論評にそこまで迫ったものはなかった。

 筆者には、国際経済などでの主導的な役割を果たした犠牲的行動、しかも、それが必ずしも各国から歓迎されていないことの結果として、現在の白人労働者の不満に象徴される米国のネガティブな側面がもたらされたとの強い認識があるように思える。正論は通じない、米国に対する直接的な貢献、その結果がすべて、ということなのか。

(床井明男)