トランプ米政権で米中戦争が起こるリスクを議論する新年「新報道」
◆警鐘鳴らすナバロ氏
米中戦争は起こるのか――、そんな物騒なテーマに新年最初のフジテレビ「新報道2001」(8日放送)の議論は及んだ。米国で20日に発足するトランプ政権で新設される国家通商会議の代表に「米中もし戦わば」の著作があるカリフォルニア大学教授のピーター・ナバロ氏が指名され、同氏がその可能性に警鐘を鳴らしてきたからだ。
出演者たちは、台湾や尖閣をめぐり、戦争にまでならなくても衝突のリスクは高まったと見ていた。トランプ次期大統領は、米中国交のため断交した台湾の蔡英文総統と昨年12月2日に電話会談し、断交理由の中国が原則とする「一つの中国」についても米保守系FOXテレビで必ずしも縛られないと発言するなど型破りな言動を取っている。
一方、中国は空母「遼寧」を“出撃”させ、中国が「第一列島線」と呼ぶ沖縄―台湾―フィリピンを結ぶラインを沖縄と宮古島の間から抜けて初めて西太平洋に進出、バシー海峡を南下し、2日には南シナ海で艦載機発着訓練など軍事演習を公開した。そのような動きを捉えながら、番組は、昨年11月に電話インタビューしたナバロ氏の著書やドキュメンタリー映画を改めて取り上げたわけだ。
番組のインタビューにナバロ氏は、「15年前、中国のWTO(世界貿易機関)加盟の際、私はグローバル市場への中国の影響を調べ始めた。中国の不公正な貿易取引が中国以外の世界に深刻な悪影響を及ぼしていた」「5年前、私は中国による対外貿易黒字を利用した軍事用機器への投資に注目した。そうした軍事機器はアジアの国々の領土を奪い取ることを目的にしたものだ」と述べていた。
◆現状変更に動く中国
実際の中国の行動に当てはまるものだ。中国は、露骨に南シナ海、東シナ海で周辺国と係争中の島嶼(とうしょ)に手を伸ばし、力による現状変更に動き出している。故に、「今後、国家間の衝突の可能性があり米中戦争につながるのではないかとみている」との同氏の応答も、絵空事ではない。
ただ、テレビが注目するのは、トランプ氏のツイッター発言であり、選挙中から続く暴言だ。番組でも「“トランプ砲”が中国攻撃 対中強硬策どこまで」など、トランプ氏によって米中対立が起きるタイトルだ。対中強硬派と紹介されるナバロ氏も、トランプ氏ともども極端な人物という印象を与える。
が、ナバロ氏は同著で極論を言っているわけではない。経済力をつけた中国の軍拡で高まる軍事能力の状況を列挙し、米中戦争が起きる可能性を地政学から検証し、リスク回避に中国を力で押さえるための軍事力、経済力をつける抑止論を説くなど正鵠(せいこく)を得た指摘をしている。むしろ遅過ぎるぐらいかもしれない。
冷戦時代には対共産圏輸出統制委員会(COCOM=ココム)という、共産圏への軍事技術・戦略物資規制があったが、ココムは1994年に解散、西側諸国は日米も含め中国市場に殺到した。当時は、中国が改革・開放路線を続け西側諸国と協調していけば、徐々に民主的な政治システムが取り入れられていくという期待があったと言えよう。
◆台湾死守訴える金氏
これが幻想だったことは、今日の習近平政権が中国共産党の統制を強化し、今の中国は「社会主義の初期段階」として100年を見据える共産党綱領を堅持し、中国共産党の方針に基づいて一方的に周辺地域に「中国の夢」の版図を広げていることを見れば明らかだ。
中国は世界第2の経済大国になってなお、軍事費を増大し続けて周辺国を圧倒する軍事力に至っており、「一つの中国」はゆくゆく台湾併合に向かう恐れが増している。
番組では、台湾出身の評論家・金美麗氏が「中国共産党、中華人民共和国は一度も台湾を治めたことも管理したこともない。台湾人が自分たちは台湾であると全世界に示したのがあの(昨年1月の総統)選挙であって、そうであるならば、核心的利益であろうが手を出せない」と訴え、「台湾は中国に対する最前線だ。これを失ったら大変なことになる」と強調し、台湾死守を求めた。日本も運命共同体の民主主義国として膨張する中国に対し抑止力を欠いてはならない。
(窪田伸雄)