トランプ氏のトヨタ槍玉に「現実無視」「政治介入」と批判、危惧の各紙
◆矛先が日本企業にも
新年早々に、祝賀気分を吹き飛ばす“暴風”に見舞われた。今月20日に米大統領に就任するトランプ氏の「トヨタ批判」発言である。
トランプ氏のトヨタ名指し批判はツイッターへの投稿で、トヨタ自動車がメキシコで計画している工場新設に対して撤回を求めると同時に、「米国で作らないなら巨額の税を払え」というもの。
同氏は米フォードに対しても同様の批判を繰り返し、年明けに同社がメキシコ工場での建設計画を撤回したばかりで、批判の矛先が日本企業にも向けられた形である。
結果的には、トヨタの豊田章男社長が9日、米デトロイトで始まった自動車ショーで今後5年間に100億ドル(約1兆1600億円)を投資する計画を表明したことで、フォードと同様、ツイッター発言が功を奏したようである。
もちろん、これだけの大規模な投資額であり、以前から検討あるいは計画中だったものと推定され、ツイッター発言だけで即決したわけではないと思われるが、同発言が大規模投資表明を引き出す契機になったのは間違いないであろう。次期米大統領発言の重み故である(逆に、トヨタにこうした投資計画があることを知っていて、先の発言をしていたとすれば、トランプ氏は情報通の相当に計算高い人物である)。
◆厳しい論調の産、朝
このトヨタ批判発言について、各紙は7日付でそろって批判の社説を掲載した。読売「現実を無視したトランプ発言」、朝日「企業たたきの愚かさ」、産経「経済歪める『恫喝』やめよ」、日経「米国での雇用貢献を評価せよ」などという具合である。
特に厳しかったのは、産経、朝日である。産経は冒頭、「自らも厳しく批判する中国の恣意的な経済運営と、本質的なところでどう違うのだろうか」と疑問を投げ掛け、「民間企業の自由な判断を曲げる露骨な介入は、強大な『政治権力』を背景とした恫喝(どうかつ)にも映る。容認できるものではない」と指弾する。
朝日も「企業活動に対するあからさまな政治介入である」が社説の冒頭で、文中でも「ネットを使った一方的な攻撃」「近く手にする絶大な権力を背景にした不当な圧力」と批判が続く。日経も慎重な表現ながら、「政治権力者が個別企業の経営に口をはさむのは尋常なことではない。先行きを危惧さぜるをえない」とした。
結果論になるが、今回、豊田社長が既に練っていたであろう大規模投資計画を表明したため、産経が言うように「(企業の)自由な判断を曲げる」とまで言い切れるかどうかは微妙なところで、計画の発表を早めさせた程度ということになるが、その趣旨は理解できる。
はたから見れば、トランプ氏のやり方は、産経が指摘するように、「政治権力」を背景とした恫喝であり、また「米国回帰を無理強いするような保護主義的な手法で、米経済の復活効果など期待できるのか」ということ。さらに同紙が「最大の懸念」として指摘する、トランプ氏に起因するリスクを警戒して日本や世界各国の企業が投資判断を手控えることである。
読売も産経ほどの厳しい論調ではないものの、「権力をかさに着た理不尽な要求は、百害あって一利なしだろう」とし、また、トランプ氏の製造業引き留め戦略が個別企業との補助金や税制の優遇措置をめぐる相対取引になり「密約」を交わすようでは、「不透明な経営環境を嫌う外資の米国離れを招きかねない」と警告する。米国のカントリーリスクを意識する企業が増大し、世界経済の停滞にもつながるという懸念である。
◆ビジネス流の延長か
各紙の批判、懸念は尤(もっと)もで正論であり、同感なのだが、いま一つ釈然としないのは、トランプ氏が本当にそうした批判、懸念を理解していないのかという点である。
日経は日本の自動車産業の対米投資額が累計454億ドルに達し、関連産業を含めた雇用創出が150万人強に上ることを指摘。トヨタもトランプ氏の批判に対し、雇用の貢献などを訴えていた。
トランプ氏が正確な数字は別にしても、こうした貢献を知らないはずはなく、各紙の批判、懸念も承知の上での発言と見るのが自然ではないだろうか。トランプ流ビジネスの延長なのか、豊田社長から大規模投資発言を引き出す“相当のやり手”であることは確かである。
(床井明男)