トランプ氏の同盟批判に理解を示し防衛体制の再構築を訴える日経
◆「防衛タブー」えぐる
トランプ米新政権が間もなく登場する。経済政策とともに注目されるのは安全保障政策だ。大統領選での「トランプ発言」は日米同盟の在り方に痛烈な批判を浴びせていたからだ。
いわく-、「もし日本が攻撃されたら、我々はすぐに第3次世界大戦を始めなきゃならない。いいかい? で、我々が攻撃されても日本は我々を助けなくていい。公平じゃないだろ?」
こんな発言もあった。「北朝鮮には狂ったやつがいる。日本が北朝鮮から自国を守らなければならないとしても、もし米国に適切に対処しなければ、どうなるか分かるだろう。(日韓は)自力で防衛しなければならなくなる」
それで「守ってほしければ、もっと駐留費を払うべきだ」と述べた。これらは核保有発言と共に「暴言」扱いされたが、日米安保条約が米国だけが義務を負う片務条約なのは事実だ。米軍がいなければ自力で防衛しなければならないのもそうだ。トランプ発言は戦後日本の「防衛タブー」をえぐったと言ってよい。
では、新聞はこれをどう受け止めるのか。年明けの社説を見ると、3日付で日経が「アジアの安全保障に新しい息吹を」、東京が「自衛隊らしい『人助け』を」、6日付で産経が「主体性もって防衛努力を 日米戦略目標の再定義を急げ」、本紙が「中国の海洋進出 急速な海軍力強化に備えよ」と防衛問題を論じている。読売と朝日、毎日にはない(8日現在)。
◆「自助努力」の必要性
このうち注目すべきは日経だ。トランプ発言に真正面から向き合っているからだ。駐留費については他の米軍受け入れ国よりも多いと反論しつつも、「彼の同盟批判には必ずしも的外れとはいえない面もある」と同調し、「日韓や欧州の同盟国が米国に頼り、低コストで平和を保ってきたという指摘がそのひとつ」と指摘している。
国内総生産(GDP)に占める軍事費は米国の3・3%に対し、英国は約2%、韓国は2・6%、日本は1%にとどまっている。「それでも米国が戦後、各国の防衛を支えてきたのは冷戦で敵対するソ連の存在があったからだ。しかしソ連は約25年前に消滅し、もはや米国には世界の警察を独りで担う理由は乏しい。トランプ政権の誕生は、こんな現実を後追いしているともいえる」と理解を示す。
「だとすれば、同盟国は米国に対し、これからも『安全保障の傘』を提供するよう求める一方で、防衛のための自助努力も増やしていかざるを得ない」
わが国のGDP費で見た防衛予算は、友好国に囲まれたデンマーク(1・2%)より低い。予算を大判振る舞いできないのも現実だが、同盟を長続きさせるには、この制約下でも防衛力を整え、米軍の役割を少しずつ肩代わりする必要があると日経は言うのだ。正鵠(せいこく)を得ている。
わが国には長く防衛費GNP(国民総生産)1%枠という神話があった。三木内閣が1976年に決めたもので、防衛力増強の“歯止め”とされ、長くこれに縛られてきた。後に中曽根内閣が取り払ったが、それでもGNPに替わっていつの間にかGDP1%枠が暗黙の了解となった。
だが、防衛体制をどう構築するかは周辺環境に大きく左右される。中国や北朝鮮の動向を見据えれば、GDP1%枠に縛られている方がおかしい。日経はその当たり前のことを説いただけだ。
◆旧社会党ばりの主張
そんな当たり前が通じないのが左傾紙だろう。前記の東京社説は自衛隊を非武装・災害派遣部隊に転換する旧社会党ばりの空想的平和主義を唱えている。これこそトランプ氏から一喝されそうだ。
戦後の防衛タブーは防衛費1%枠だけではない。集団的自衛権行使、専守防衛、非核三原則、宇宙の「平和」利用、武器輸出三原則、反スパイ防止法等々、枚挙に暇(いとま)がない。このうち幾つかは是正されたが、まだ多くのタブーが残されている。9条はその最たるものだろう。
これにしがみ付いているのが朝日を筆頭とする左傾紙だ。毎日は今を「歴史の転機」(元旦からのシリーズ社説)とするが、転機に当たっても防衛タブーを守り続けいくのだろうか。とすれば、もはや化石新聞と言う外あるまい。
(増 記代司)