テロで新年を迎えたトルコのエルドアン政権に批判と同情の各紙
◆テロのブーメラン?
1日未明、トルコのイスタンブールのクラブで銃撃事件が起き、39人が死亡した。2015年、16年にテロで400人以上の死者を出したトルコにとって、最悪の1年の幕開けとなった。
安全保障・情報を専門とするイスラエル人ジャーナリスト、ヨシ・ネイマン氏はエルサレム・ポスト紙への寄稿で、今回の事件を「テロのブーメラン」と呼んだ。クルド人、過激派組織「イスラム国」(IS)へのエルドアン政権の対応が、テロを招いたという指摘だ。
エルドアン大統領は政権奪取後、強権支配、イスラム化の推進で内外から批判を受けてきた。人権侵害やマスコミへの圧力などは西側から強い批判を受けてきたが、止まる気配は見えない。
この強権支配に対する一つの反発の表れが昨年7月の軍によるクーデター未遂事件だ。エルドアン大統領はこれを機に政敵の排除に乗り出した。
一方で、この1年半の間、国内でテロが頻発している。中でもISによる大規模な無差別テロが目に付く。
ネイマン氏は「警報、警告、念入りな監視、安全対策の強化をトルコ治安当局、警察にとっても、覚悟を決めた殺人犯を止めることはほとんど不可能であることが、この事件でまた明らかになった」とテロ対策の難しさを指摘する。テロの脅威にさらされ続けてきたイスラエル人らしい指摘だが、同氏はこのところのテロをエルドアン大統領の「巧みな操作と近視眼的な政策に対する重い代価」だと非難した。
◆ISの脅威を軽視
トルコ政府はシリア内戦で反アサドの立場を取り、米国などと共に反政府勢力を支援してきた。2年前にISがイラク、シリアで台頭し始めるものの、ISに対しては明確な態度を示してこなかった。ネイマン氏はこれについて「秘密裏にISと協力していた、または少なくともその活動に対し見て見ぬ振りをしていた証拠が明らかになってきている」と指摘している。
ところが15年半ばに政策を転換、ISを敵視し始めた。「この時点でISは、トルコをブラックリストに加えた」とネイマン氏は指摘している。トルコは昨年半ばにはシリア領内に軍を送り、IS、クルド人勢力への攻撃を開始しているが、シリアとの間に長い国境を持つトルコは、ISにとっては格好の標的だ。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)もエルドアン政権に否定的だ。4日付電子版の社説で「エルドアン氏の被害妄想がテロの脅威を現実のものにし、悪化させた」と手厳しい。
ISのテロ対策で国内、国外が協力すべき時に、エルドアン大統領は国内の分断と西側諸国との関係悪化、シリア内戦でのロシアとの協力によってかえって、情勢を複雑にしているように見える。
WSJは、トルコがISの脅威を軽視したことがISの成長を許し、エルドアン氏のイスラム主義と独裁的支配がトルコを「脆弱(ぜいじゃく)にしている」と指摘。「エルドアン氏は、全ての問題に対して、自身の権力強化で対処してきた。それをやめれば、トルコはもっと安全で、信頼される国になる」と結論付けている。
◆民主勢力の連帯訴え
その一方で英紙ガーディアンは、トルコへの連帯の表明で危機を乗り越えるべきだと前向きだ。
「世界は、フランスでしたように、犠牲者に対して強く、明確な連帯を表明すべきだ」という主張は、テロへの対応、人道という見地からも当然だろう。また「(テロ、国内の分断など)プレッシャーはあるが、トルコでは依然、市民社会が活気を帯び、民主主義、開放、寛容を希求している。これを支援すべきだ」と主張する。近年のトルコ情勢を見る限り、西側としてはこのような程度の対応しかできないのかという無力感が漂う。
同紙は「独裁政治に支配された国を見るとき、独裁者ばかりが見え、そこに住む多様で、強い志を持つ多くの国民が見えにくくなるのは無理もない」とトルコの民主勢力への連帯を呼び掛ける。
テロで新年を迎えたトルコ。複雑化するシリア情勢を前に「東西の懸け橋」トルコへの注目は高まるばかりだ。
(本田隆文)