洞察乏しい元旦社説/行き過ぎた資本主義の規制を識者が説く読売

◆不安の年明け告げる

 「一年の計は元旦にあり」ということわざがあるが、ものごとは最初が肝心である。その伝でいくと新聞の元日社説が何を論ずるのか、かつての影響力は衰えたとはいえ、新聞社説から新年の世界と日本を展望する人もまだ少なくなかろう。元日社説にはそうした読者の期待に応え、新しい年の展望を洞察し示唆やヒントがなければ価値がないと思うのだが、そのことがとりわけ意味を持つ今年はどうであっただろうか。

 今年は、「米国第一」を掲げたドナルド・トランプ氏がこの20日に米国大統領に就任し、昨年の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択した英国の離脱交渉が春から始まる。これに大いに関わる春の仏大統領選挙や秋の独総選挙があり、韓国の大統領弾劾についての判決も出る。

 世界のこうした動向を前に日経は「不確実性という言葉がこれほど似合う年はない」、毎日は「私たちは歴史の曲がり角に立っている」、朝日は「幾多の波乱が予感され、大いなる心もとなさとともに年が明けた」などと言うように、不安とともに世界が年明けることを告げたのである。

 その深淵(しんえん)にあるのは「グローバリズムへの反発が広がり、民主主義という基本的な価値観さえ揺らいでいる」(産経「年のはじめに」)、「排外主義を煽(あお)るポピュリズム(※大衆迎合主義)の拡大は、人と物の自由な移動を進めるグローバリズムの最大の障壁になりつつある」(読売)ことである。その一方で、毎日はフランスの経済学者ジャック・アタリ氏の指摘を引いて「地球規模で広がる資本主義の力は、国境で区切られた国家主権を上回るようになり、やがては米国ですら世界の管理から手を引く」「先進国を潤すはずのグローバル経済が、ある時点から先進国を脅かし始める」と資本主義と民主主義が衝突する事態にも陥る複雑な様相を指摘する。

◆グローバル化の欠点

 このあたりの深刻な問題の構図について、朝日はグローバリズムを絶対善、ポピュリズムを絶対悪のように見立てて「ポピュリズムは、人々をあおり、社会に分断や亀裂をもたらしている。民主主義における獅子身中の虫というべきか」と明確に断罪するが、毎日のような捉え方もあり、ことはそう単純には割り切れるものではあるまい。

 朝日ほどではないが毎日を除き各紙も概ねグローバリズム善説に立って、反グローバリズムやポピュリズムとの二者択一を迫り、論を展開する。だが、グローバリズムとて、「強欲資本主義」などの問題が指摘されているように、完全無欠ではない。完全無欠では、グローバリズムの欠点を修正し、その弊害などを克服する視点が見えてくることはない。

 そこが各紙社説に、今日の問題指摘までは論じられても、それから先に具体的にどうすればいいのかになると、啓発される内容が乏しくなると思う理由である。

 その点でも毎日が「いま世界で起きているのは、社会的不公正に絶望した人々の大きなうねりだ」「問題は、そうした声が正しく『聞き届けられる』回路の不在である」(小松浩・主筆)とか社説で「グローバル化がもたらす負の課題は、グローバルな取り組みでしか解決し得な」いと指摘。「日本がグローバリズムと共存していくには、国民の中間的な所得層をこれ以上細らせないことが最低限の条件になる」(社説)と説くのは同感である。

◆衝撃的な洞察に刮目

 社説では他に目ぼしいものが見当たらない中で、読売の識者インタビュー連載「2017/問う」(3日付からスタート)初回で、米政治哲学者のマイケル・サンデル氏の、極めて衝撃的な洞察に刮目(かつもく)させられるのである。

 「新自由主義的なグローバル化こそが未来に通じる道だ」と。そう我々は想定し、確信していたが「間違いだった」と断じた上で氏は「米欧流の民主主義は更に進歩し、世界に広がっていくのが当然だとのんきに信じてきた第2次大戦後からの時代は終わりを迎えている」と語る。「グローバル化の恩恵が全ての人々に共有される社会」を作るために「民主主義には正義が大切だ」と強調する。

 そのために「一つは世界の国々が協力し、行き過ぎた資本主義を規制する国際合意を作ること。もう一つは国家が公共財を充実させて、地域・国家に帰属しているという安心感を国民に与えること」だと説くのである。社説にもこれぐらいの洞察が欲しい。

(堀本和博)