小池都知事を“援護射撃”する羊頭狗肉の文春「新年号」トップ記事
◆「ブラック」に程遠く
昨年の週刊誌業界は「文春砲」の快進撃だったと言っても過言ではない。「新年特大号」と銘打って、年末から店頭に並んでいる「1月5日・12日号」を、さぞや力の入ったものになっているだろう、と繰(く)ってみた。
トップ記事は「小池百合子のブラックボックス」だ。昨年の都知事当選以来、連日“メディアジャック”してきた小池氏は新年号で直撃するにはふさわしい“大物”である。しかも、同氏が自民党都連を指して言った言葉「ブラックボックス」を捩(もじ)っているから、「ブラック」な部分が暴かれているのだろうと期待させる。
ところが、内容は「ブラック」とは程遠く、「グレー」にもなっていない。むしろ小池氏の「失速しない」活躍ぶりを紹介しているのだ。文春砲はいつから“援護射撃”をするようになったのか。
「3年同居20歳下男性の正体がついに判明!」という見出しも、「正真正銘のいとこ」と一蹴されて色あせ、「電通から総額三百万円の献金」という切り込みにも、「普通のあれでしょ。ちゃんと(法律に)則って」の献金だと返されておしまいだった。最近では「羊頭狗肉(くにく)」とは週刊誌の記事を指すようだが、まさにその典型である。
◆“おせち料理”的献立
1年前、タレント・ベッキーの「ゲス不倫」を報じて同誌のスクープが始まったが、新年号でも同じように芸能人のスキャンダルを載せている。「嵐・松本潤、裏切りの“4年恋人”」だ。松本は井上真央との交際が報じられてはいるが夫婦ではない。独身の松本がAV女優の葵つかさと“二股交際”したところで、しょせん当人たちの問題だ。
もっともSMAP解散以後、アイドルグループの頂点にいる嵐にこの手のスキャンダルはジャニーズ事務所にとっては痛手だろう。
新年号は昨年から続くユニクロ潜入取材の第5弾、いまだに解決されない横浜点滴殺人、「医療の常識」を疑えなどの健康テーマ、さらに皇室の話題など、正月号らしく総花的な編集になっており、特大のスクープがない分“おせち料理”的な献立でスタートしている。
その中で、昨年最大の話題だった「トランプ当選」後の世界を見通したのが池上彰氏と半藤一利氏の対談で、目を引いた。連載コラム「池上彰のそこからですか?」の拡大版である。
半藤氏は「一九二〇年代にアメリカは同じようにアメリカ第一主義を掲げ、移民を排斥していた時代があった」とし、トランプ氏の言っていることは「この時代のアメリカの言っていたことに、そっくりなんです」と指摘する。
これに池上氏も、「EU(欧州連合)離脱を決めたイギリスをはじめ、大恐慌時代と同じように反移民・保護経済は欧州にも広がりをみせていますね」と応じ、「フランスの極右政党『国民戦線』を率いるマリーヌ・ルペン」「メルケルの難民政策とユーロ統合に反対する右翼政党『ドイツのための選択肢』が州議会選挙躍進」などを紹介した。
◆悲観的批判的な対談
半藤氏は、「安倍晋三首相だってトランプとさして変わらないことをいっている」と付け加え、「普遍的な理想を掲げて国際政治をリードしようとする政治家は、これからしばらく世界からいなくなる気がします」「むしろディールが得意なビジネスマンがいればいいんだ、と」と見通す。ずいぶんと悲観的批判的観点だ。
まとめで半藤氏は、「一九二〇年代末の世界平和・国際協調を重視する時期から、それを全否定する時期への転換点と現代の相似は、驚くほどです。第二次世界大戦へと向かった一九三〇年代と比べて、今は国際的つながりも強くなり人的な移動も増えたので、そう同じことにはならないとは信じつつも、もしかするとという怖れがある」と時代への不安を語った。
「もしかすると」という懸念は野党が与党批判のよりどころにするものだ。もちろん「怖れ」はあるだろうが、むしろ「同じことにはならない」ように導くのが言論の勤めではないだろうか。
新年も国際政治から事件、スキャンダルに至るまで、次々に話題が沸き起こるだろう。文春砲の照準は正しく定められるのか。
(岩崎 哲)