17年度予算案で税収頼みの危うさ、歳出改革の不足を批判する各紙
◆切り込み不足を指摘
政府が17年度の予算案を決定した。一般会計総額は97・5兆円と5年連続で過去最大を更新。税収の不足分を穴埋めする新規国債の発行額は34・4兆円と7年連続の減額を達成し、麻生太郎財務相は経済と財政のバランスを両立させた予算と評した。
だが、各紙社説の論評は総じて厳しい批判が並ぶ。見出しは、次の通りである。
読売(23日付)「『未来への投資』となり得るか/成長と財政再建の両立目指せ」、朝日「税収増頼みの危うさ」、毎日「漫然と借金に頼る怖さ」、日経「3党合意の次の一体改革の検討に入れ」、産経(24日付)「成長に資する改革足りぬ/円安頼みの財政運営を脱せよ」、東京「財政は国の形である」、本紙(26日付)「内需主導の自律成長に十分か」――。
読売と産経は、通常2本立ての社説枠に1本だけの大社説。保守系紙として安倍晋三政権の予算案に大きな関心を大きさで示した。
内容は見出しの通りで、「社会保障の膨張で財政の硬直化が進み、メリハリに欠ける。借金依存も変らない。安倍首相が掲げる『未来への投資』に十分に応えたものとは言い難い」と読売。
産経も、成長と分配の好循環、働き方改革に資する政策に重点配分し選択と集中を図るのは当然と評価しながらも、「改革や切り込みには物足りなさが残る」とした。尤(もっと)もな指摘である。
他紙の批判の内容もほぼ同様で、朝日「全ての分野を対象に、より少ない予算で政策効果を高める検討を尽くしたとはとても言えまい」、毎日「膨張に歯止めをかけられず、巨額の借金を抱える財政への危機感が感じなれない」などという具合である。
◆方向性に間違いない
日経は「歳出が膨らむ主因である社会保障費の効率化はなお道半ばだ」と、朝毎と違って、政府の努力は認める。ただ、経済成長と両立させつつ、財政と社会保障を持続可能な状態にしていくため、「新たな社会保障と税の一体改革の検討に速やかに入るべきだ」と主張するのである。
日経などが指摘するように、医療や介護で高齢者の負担増に踏み込んだ点は評価されていい。「所得や資産にゆとりのある高齢者にも応分の負担をしてもらうのは当然」(日経)であろう。
今回、各紙に目立ったのは、「アベノミクスの果実である税収増」(読売など)についての言及、すなわち、朝日が見出しにとった「税収増頼みの危うさ」である。
16年度の税収は、年度前半の円高による企業業績の悪化から当初見込みを割り込んだ。日経でさえ、「やはり税収増に過度に依存した財政健全化は危うい」とし、産経も「(税収増は)実際には為替次第で大きくぶれる」点を指摘した。さらに毎日は「成長に伴う税収増を当てにして歳出抑制に及び腰だった」とし、「今回も改革に踏み込まず、漫然と借金に頼った」と厳しい批判を浴びせた。
確かに、企業収益の現状は為替相場に左右され、法人税収も当然この影響を受ける。しかし、こうした状況はアベノミクスのある、なしに全く関係がない。アベノミクスの当初の政策、つまり大胆な金融政策と機動的な財政政策などの結果として、円安・株高が誘発され、企業収益はじめ景況感が全体として好転していき、それが税収増につながったという話しである。
ただ、アベノミクスによる税収増によって、新規国債発行が7年連続で減額になり、ペースが緩慢になったとはいえ基礎的財政収支を改善させているのは、紛れもない事実である。その点では、本紙が指摘したように、「成長による税収増によって経済再生と財政健全化を目指すという『アベノミクス』の方向性は間違っていない」であろう。
◆消費増税で内需低迷
各紙が認める消費税増税は確かに安定財源として有効ではあるが、経済に悪影響を及ぼす。現に14年4月の消費税増税も、1997年度の増税と同様、実施以降、個人消費や設備投資など内需の低迷を招く結果となっている。
この点では、読売が指摘するように、「景気変動にも耐えられる財政運営へ向け、歳入歳出両面で不断の改革を進めて行く」ことが大事ということになるが、経済再生時で現状では、過度の歳出削減も禁物であり、まずは「自律的成長に向け内需を強化」(本紙)すべきということであろう。
(床井明男)