カジノ批判と裏腹に生活保護者の“パチンコ店通い”を擁護する朝日

◆唖然とする二重基準

 この師走、いわゆるカジノ法をめぐる朝日のダブルスタンダード(二重基準)に唖然(あぜん)とさせられた。

 同法はカジノを含む娯楽施設や飲食・宿泊施設などの統合型リゾートの設置を推進する議員立法で、政府に対して施行後1年以内に規制基準や対策などを盛り込んだ実施法の策定を義務付ける。つまり中身はこれからの話だ。それで論議が深まらなかった。

 これには読売が怒った(本欄8日付「日本にこれ以上ギャンブル制度が必要なのか問う読売」参照)。懸念されるのはギャンブル依存症への対策が不透明なことだ。それで朝日は言った、「国民が納得できる策を政府が出さない限り、カジノ実施は認められない」(16日付社説「課題の解決策を示せ」)。もとより異論はない。

 が、朝日社説が「競馬、競輪などの公営競技やパチンコといった既存ギャンブルの弊害」を説き、「(これらの)依存症の問題にどう手をうつのか。何よりもまず、政府はこの点について明確な方針を打ち出すべきだ。パチンコや公営競技での被害抑止策も同時に考える必要があろう」と言うに及んで、唖然とせざるを得なくなった。

 というのは、朝日はカジノ法批判とは裏腹に生活保護受給者の“パチンコ店通い”を擁護しているからだ。ちょうど1年前の昨年12月、「大分県別府市が、パチンコ店などに生活保護受給者がいないか調べて回っていたことがわかった」と、別府市の生活保護者へのパチンコ規制に対して批判の口火を切った(同16日付=ネット版)。

◆別府市の処分は妥当

 朝日によると、別府市は同年10月、市内13のパチンコ店と市営別府競輪場を巡回し、受給者25人を見つけて市役所に一人ずつ呼び出し、行かないように注意。調査した5日間で再び見つけた受給者については支給額の大半を1カ月分取りやめたとしている。

 こうした取り組みは国に先駆けたギャンブル依存症対策と言ってもよい。だが、朝日は問題視し、それに煽(あお)られるように人権派弁護士らが今年3月、別府市に指導や処分は違法と申し入れ(同10日付)、厚労省も「不適切」としたため、別府市は生保受給者の処分を中止した。

 産経によると、別府市の生活保護状況(2013年度)は、市民1000人当たり約32人で、県平均(約17人)の2倍近くと突出しているという(3月17日付)。そのうち少なからずギャンブル依存症が見受けられるから、別府市の処分は理解できる。

 だが、朝日は自民党改憲草案を批判する「憲法を考える」シリーズでも取り上げ、生保受給者の自由を奪うなと主張した(4月13日付「生き方規定、息苦しくないか」)。

 記事は「ストレスを発散したいとパチンコ店に行ったところ、市に通報され、受給額を1カ月間半額にされたことがあった」という女性を登場させ、「あれをしてもだめ。これをしてもだめ。堂々と生きていけません」と語らせ、その上でこう書いた。

 「改めて考えたい。自分の生き方は自分で決める。これが憲法の大原則だ。私たち一人ひとり、自由と権利を有している。申し訳なさそうに肩身を狭くして、清く、正しく生きることを求められる受給者。『常に公益及び公の秩序に反してはならない』(自民党憲法改正草案12条)。憲法がそう規定する社会はおそらくとても、息苦しい」

◆保護費は国民の血税

 そうだろうか。生活保護法第60条は「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない」と定める。

 物品保有は「地域の全世帯の70%程度の普及率」をもって認めるが(実施要領)、パチンコ参加率は15%程度にすぎない(15年版レジャー白書)。清く、正しくとは言わないまでも勝手に使ってよい謂(い)われはないはずだ。そもそも保護費は国民の血税だ。パチンコ店に受給者が溢(あふ)れれば、そっちの方こそ息苦しい。「パチンコは自由だ」と叫びつつ、ギャンブル依存症の「課題の解決策を示せ」とすごむ。こんな二重基準の朝日にカジノ法批判の資格などありはしない。

(増 記代司)