“ブラック企業”追及なら文春はユニクロより電通の「潜入取材」を
◆迫力欠いた第3弾
週刊文春による「ユニクロ潜入取材」の掲載が続いており、12月22日号で第3弾を数えた。ユニクロも書き入れ時のクリスマスシーズンを迎えながら、毎週週刊誌に登場するのは業績に響くことなのか、逆に“宣伝”になるのか、痛し痒(かゆ)しだろう。
第3弾ではついに筆者「ジャーナリスト横田増生」氏の元にユニクロから「解雇通知書」が届いたという。「十一月、十二月は、年間の利益の半分を稼ぐと言われ、ユニクロにとって最も重要な時期」で、人手はいくらあっても足りない中、取材という別の目的を持ちながらでも、マジメに働いていた筆者の解雇は当該店の人員やりくりに少なからず負担を掛けたのではないか。
横田氏がユニクロを取材ターゲットにしたのは、1年前業績を下げた同社が巻き返しのために打ち出した「経費削減」、その具体策「出勤日数削減」、それを補うための「サービス残業」と「過酷な勤務シフト」による厳しい労働環境・条件、いわゆる企業の“ブラック”度の実態を暴くためである。
「どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」という柳井正社長の言葉で、横田氏は潜入取材を決め、1年間にわたって3店舗を移りながらユニクロの実態を取材してきた。結果はやはり「サービス残業」があり、厳しいシフトがありの“ブラック”だった。
3弾目で横田氏は、年間の出勤日数制限を調整するための勤務調整や、支払い方法が煩雑なことから生じるレジ打ちのミスなどを書いているが、どうも“ブラック”追及としては枝葉末節のような話題である。今後も記事は続くようだが、ユニクロでこその“ブラック”な面が出てこなければ、この企画自体が一つの職場体験記に終わってしまう。もっと厳しい職場で働いている人にとっては、「それがどうした?」という記事にすぎない。
◆衝撃的な実態暴く
文春は同じ号によりインパクトのある記事を載せた。「激震ドキュメント電通の真実」だ。「残業時間が百時間を超えた」女性職員が過労自殺したことを契機に、同社は厚生労働省の一斉家宅捜索を受けた。それ以降、午後10時には全館一斉消灯し、社員を追い出し、「働き方改革」にこれ努めているが、電通の“ブラック”さはユニクロの比ではない、という実態が暴かれており読ませる。
最初の話題は「契約社員」が退職に伴い、残業時間として申請していなかった自宅での作業の扱いについて、「労基署に相談」する旨、会社に話すと、「行ったら自己都合退職でなく、解雇になる」と言われたというものだ。退職と解雇では条件が違ってくる。深夜でも上司から仕事のメールや電話がかかってきて、「企画書の更新や資料作成など」をやらされて、そのうち「携帯を持つ手が震えるようになった」という。最終的に退職となった。「働き方改革」真っ最中の電通にとって、労基署に駆け込まれては困る事例だ。
「長時間労働は電通の社内に文化のように深く根付いていた」という。10時に追い出された社員はネットカフェやクライアントの会議室などで仕事を続けているというから、「働き方改革」は狙いとは違う“別の展開”を遂げているようだ。
◆不祥事ネタを列挙
次は電通社員が深夜のバーレストランに知人の女子大生を呼び出し、ライターで腕を焼いて「全治四~六週間」の火傷を負わせたという事件。加害者は「酒グセが悪い」といっても、酒席の戯れにしては度が過ぎている。相手は社員でもない若い女性だ。満足な謝罪も受けられなかった被害者は「麻布警察署に傷害容疑で刑事告訴した」という。
三つ目の話題はフィットネスクラブの「ライザップ」に「3億円恐喝未遂」。最後が「森喜朗に献金400万円」という記事。大企業ともなれば、目の行き届かないところでさまざまなことが起っている。これらの記事は「不祥事の電通ネタを集めただけ」との感も免れない。
むしろ問題は「長時間労働」である。この点での電通の“ブラック”ぶりはユニクロの比ではない。そうであるなら、ユニクロよりも電通にこそ「潜入取材」を試みるべき、となる。“ブラック企業”追及の在り方自体もそろそろ考え時だ。
(岩崎 哲)





