日露首脳会談前にプーチン大統領に聞き期待を沈めた日テレ・読売

◆国策的インタビュー

 安倍晋三首相とプーチン大統領による日露首脳会談の直前、プーチン大統領に行ったインタビューを、13日夕方の日テレ「news every.(ニュース・エブリィ)」、14日夜のBS日テレ「深層ニュース」が放送した。インタビューは日本テレビと読売新聞がモスクワ・クレムリンで、現地時間7日午後10時50分から8日午前0時10分にかけて約80分行ったという。

 訪日を1週間後に控えた大統領が執務を終えた深夜から未明にかけて長時間応じたもので、日本側としてはロシアの出方をうかがう国策的なインタビューだったと言える。内容は首脳会談の合意事項を示唆しており、平和条約を締結する意思も友好を促進する意思もあるが、領土問題は認めないロシア側の姿勢をあからさまに伝えていた。

 両番組でも焦点となったのが、「われわれには適切な関係を築くことができる基礎はまだない」「ロシアには領土問題は全くない」などの発言だ。インタビュー報道は、訪日直前に北方領土返還への期待を打ち消す役回りをし、厳しい交渉に臨む安倍首相の立場を知らせた。不愉快ながらも率直だった。

 ここでソ連軍侵攻当時からの記録フィルムで北方領土問題を振り返り、プーチン大統領1期目当時の2001年イルクーツク声明などと比べ「後退」と評した。が、1993年の4島の帰属を解決し平和条約を結ぶ方針を示したエリツィン大統領当時の東京宣言から始まる交渉にロシアが本気なら、交渉は既に動いていただろう。

◆「基礎」が隔たる日露

 これまで各メディアでは4島が困難なら歯舞、色丹の2島プラスアルファなどの臆測も流れていた。しかし、インタビューでは1956年日ソ共同宣言でも2島の日本主権を認めるかどうか分からないことを、プーチン大統領自身が同宣言文で解釈していた。

 このような予告の上で両首脳は会談し、北方領土での共同経済活動のための特別な制度について交渉を開始することなどの方向を決めた。これからインタビューでプーチン大統領が発言した「基礎」や「信頼」づくりを始めるとも考えられるが、同インタビューで大統領が繰り返し引き合いに出した「中国」のことを踏まえれば、中国の域に達しなければ、基礎や信頼を有する友好国になれない意味もある。

 首脳同士の人間関係は築かれても、日露は第2次世界大戦、東西冷戦を経た国際関係の中で外交・安全保障をめぐり利害関係が容易に一致しない宿命を背負っている。日本にとって最重要国は日米安保条約を結ぶ米国だが、プーチン大統領はロシアにとっては中国だと強調。クリミア併合やウクライナ問題をめぐって欧米諸国の経済制裁に日本が加わっていることと最大の貿易相手である中国との違いも指摘していた。

 ロシアにとって欧米との確執を深めたのは北大西洋条約機構(NATO)東方拡大だ。相互不信が連鎖し、ウクライナ問題の戦禍につながった。西側先進7カ国(G7)として成長してきたわが国としては譲れない国際関係もあり、何より力による現状変更を認めるわけにはいかず、対露制裁に加わった。

 これは経済協力では埋められない無理な「基礎」工事だ。ロシアを含め国際社会の対立要素が緩和されて全般的に好転でもしない限り、日本だけでロシアに向き合ってもらちが明かない現実もある。

◆柔道人脈で関係修復

 「every.」では、2014年の対露経済制裁でプーチン大統領来日が頓挫した時に、パイプ役を果たしたのが柔道金メダリストの山下泰裕氏だったことを紹介。同年8月にロシアで開かれた世界柔道選手権大会にプーチン大統領と同席した山下氏が、安倍首相がロシアと解決できなかった問題に道筋を付けたいと伝えたという。プーチン氏が愛好する柔道が外交チャンネルとなった。

 番組で語る山下氏によれば、プーチン大統領の反応は勝負師のような戦いに臨む形相で、「安倍首相は言っていることとやっていることが違うんじゃないか」と語ったという。が、その後に安倍首相の誕生日にプーチン大統領から電話が入ったとのことだ。スポーツなど文化交流が首脳間の関係修復につながったという興味深いエピソードだった。

(窪田伸雄)