川内原発再開で東、毎は知事の「変節」非難、産、読は「現実的」と評価

◆知事の言動が焦点に

 鹿児島県の九州電力川内原発1号機が、定期検査をほぼ終えて11日に発電を始め、運転を再開した。来年1月6日には営業運転に移行する。

 同原発では2号機もこの16日から定期検査に入り、来年2月27日に発電を再開し、3月24日に営業運転に移行する計画である。

 この川内原発の運転再開について、原発慎重・反対派の東京、毎日と肯定派の産経、読売で論調が見事に分かれた。

 特に今回は、原発そのものというより、鹿児島県の三反園訓知事の言動、対応が焦点になっている感じで、東京、毎日は知事の対応を「変節」と非難し、産経、読売は「現実的対応」と評価した。

 まず、各紙の社説見出しである。掲載順に並べると、次の通り。東京(9日付)「三反園知事/声なき声が泣いている」、産経(11日付)「川内再稼働/安全運転で原発の回復を」、毎日(同)「三反園知事/看過できない変節ぶり」、読売(13日付)「川内運転再開/原発正常化へ実績を重ねたい」――。

 東京、毎日が「変節」と非難するのは、三反園知事が脱原発を掲げて知事に当選したにもかかわらず、川内原発の再稼働を「私に稼働させるか、させないのかの権限はない」と事実上容認することになったからである。

 東京はこの発言に「落胆し、あきれた人は多いに違いない」と批判し、毎日は「知事に原発を停止する法的な権限がないことは、最初から分かっていたことだ。だからこそ、県独自の検討委員会を早急に設置して原発の安全性や避難計画を検証し、浮び上がった問題点を九電や政府に問うていく必要があったはずだ」と憤るのである。

◆安全対策評価する読

 毎日がそのように指摘した点については、知事が検討委設置のための予算案を県議会に提案したのは先月末で、採決は16日の予定と「対応が遅すぎると言わざるを得ない」(同紙)状況。

 しかも、同紙が「さらに疑問」と指摘するのは、知事が検討委のメンバーは議案可決まで公表できないとしていることだ、という。知事は市民団体と政策合意をした際に、検討委には「反原発の方々など幅広い人に入ってもらう」と述べていたにもかかわらず、県議会では「約束したかどうか記憶が定かではない」と答弁するなど、同紙にとっては期待を裏切る言動で、社説見出しの「看過できない変節ぶり」と映ったわけである。

 そうした言動を取った三反園氏の知事としての資質はともかく、結果として、川内原発が運転を再開したことの意義は大きい。産経が指摘するように、「国内の原子力発電の復活を牽引(けんいん)する着実な一歩」である。

 川内原発1号機は、東京電力福島第1原発の事故後に、原子力規制委員会が定めた新規制基準に初めて合格した原発であり、昨年8月の安全対策後の再稼働も最初、そして、今回の定期検査後の運転再開である。「これで原子力発電が通常に運用される流れ全体の復活を見たわけ」(産経)である。

 特に、川内原発は今春の熊本地震を受け、知事の要請で特別点検をも実施。原子炉内を水中カメラで点検するなど、10項目で異常は見つからなかったという。さらに、規制委が11月に重大事故対応の拠点になる「緊急時対策所」の建設計画を了承するなど、一層の安全向上策が進んでいる。読売は「運転停止が長期化している他の原発でも、安全対策のモデルとなるはず」と強調したが、同感である。

◆情緒的見出しの東京

 東京や毎日は知事の「変節」を非難するが、読売が指摘するように、知事が「川内原発の運転に現実的対応を取り始めたのも、(九電の)こうした取り組みを考慮せざるを得なかったからだろう」。

 鹿児島県議会では、原発容認の議員が多数を占め、原発のある薩摩川内市では容認の首長が再選された。「県政の円滑な運営には、こうした現状を無視することはできまい」(読売)ということである。

 東京の言う「声なき声」だが、原発容認の議員、首長を支持した県民、市民も「声なき声」である。現実は概してデモなどで「脱原発」を叫ぶ人々の声の方が大きく、「声なき」ということはない。意味のない、情緒的な見出しである。

(床井明男)