配偶者控除に矛先を向けジェンダーフリーの旗振り役を演じる毎日

◆朝日も顔負けの論調

 「平和・協同ジャーナリスト基金賞」。あまり聞かない賞だが、平和、反核などの分野の優れた報道に贈られるそうで、今年の大賞は毎日夕刊の「特集ワイド」だった。「集団的自衛権や安全保障関連法、憲法、沖縄の基地、原発などの問題を積極的に取り上げ、ユニークな企画性が感じられ、現在のマスメディア内で異彩を放っている」というのが授賞理由だ(毎日2日付)。

 特集ワイドは朝日も顔負けの過激な反安倍論調が売りで、確かに異彩を放っている。基金は左翼系学者らで運営されており、大賞は意にかなう「優れた報道」へのご褒美か。

 9日付夕刊を見ると、授賞に合点がゆく。「配偶者控除『拡充』の体たらく」の見出しが躍り、「自民が『廃止』に前向き…解散風で一転、急旋回  世論に根強い性別役割分担意識」と、配偶者控除に矛先を向けているからだ。

 配偶者控除は妻の年収が103万円以下だと受けられるので就労する「壁」になっているとして自民党内で当初、廃止論も出たが結局、150万円まで引き上げることになった。記事は「歴代政権の女性政策に携わってきた第一人者」とする大沢真理・東大教授の主張をベースに廃止撤回を痛烈に批判している。

 大沢氏は「フェミニズム(女性解放論)の政治の制度化をその現場で担っている第一線の指揮官」(上野千鶴子・東大名誉教授)とされ、ジェンダーフリーを盛り込んだ「男女共同参画社会基本法」(1999年施行)を作成させた人物として知られる。

 ジェンダーフリーは男女の性差を否定し、専業主婦を男女の「固定的役割分担」としてやり玉に挙げ、配偶者控除を役割固定化の「内助の功」と捉え廃止を唱える。特集ワイドはその旗振り役を演じている。そこが左翼系から評価される所以(ゆえん)なのだろう。

◆控除の意味問い直す

 配偶者控除については他紙も廃止撤回を批判する。ジェンダーフリーに与(くみ)さない保守紙も「今の見直し代案では不十分だ」(読売11月28日付)、「活力ある社会に資するか」(産経9日付¥回転(90)¥長体(23)=いずれも社説)と足並みをそろえる。

 オーストリアの社会哲学者イワン・イリイチは家事労働を「シャドウ・ワーク」と呼んだが、家事労働は「無賃労働」で国内総生産(GDP)に加算されないから、成長戦略を掲げる安倍政権にとっては都合が悪いのだろうか。

 いったい配偶者控除とは何なのか。三木義一・青山学院大学長は日経紙上で、新聞にはない視点で配偶者控除の意味を問い直していて興味深い(10月13日付「経済教室」)。

 三木氏によると、同控除が制度化された61年当時、事業者の妻が事業に専従すると給与を夫の所得から控除できたので、それと整合するため取り入れられたもので、給与所得者の「内助の功」を認めたからではないという。

 家事労働からは所得が生まれないから本来、国は無所得者には生活保障をしなければならないが(憲法25条)、婚姻中は互いに扶養義務があるので、これを前提に生活保護を支給しない。その代わりに「健康で文化的な最低限度の生活」のための支出分を配偶者控除として差し引く。それが真の意味で、代替措置なく廃止すれば憲法違反だと三木氏は強調している。

◆多くは「働き方」調整

 日経の9月の世論調査では配偶者控除廃止に「賛成」が53%だったが(同26日付)、11月の調査では「妻の年収の上限を拡大し、夫の年収に上限」が38%、「現状維持」が30%で、「配偶者控除廃止」は15%にとどまっている(日経リサーチ・ネット版¥回転(90)¥長体(23)=25~27日調査)。

 共働き世帯が増えたと言っても、主婦の多くは家事や育児との両立や家計補助を念頭に「働き方」を調整している。それで今回の見直し案を是としているのだろう。労働市場やジェンダーフリーの「働き方改革」は支持されない。そこを新聞は見落としている。

(増 記代司)