北方領土を特集するも「引き分け」論に終始した週刊エコノミスト

◆強かなロシアの外交

 政府は8日、ロシアのプーチン大統領が15、16日に来日することを正式に発表した。首脳会談は15日に安倍晋三総理大臣の地元である山口県長門市で、16日には東京に戻って行い、両首脳は会談後に共同記者会見を首相官邸で行うとしている。ちなみに、今回の日露首脳会談の開催は早い段階で国民に周知され、その動向が注視されてきた。これまでロシア大統領の来日は突然中止になるケースが多かっただけに、このたびの首脳会談は歴史的なものになるのではないか、という期待が日本側に膨らんでいる。すなわち日露間に存在する北方四島問題が解決し、両国が新しい関係を構築できるのではないかという期待だが、果たして交渉がスムーズにいくものかどうか。安倍首相が「領土問題が一朝一夕に片が付くほど単純なものではない」と話しているが、それでも国民はマスコミ報道にあおられて大きな期待を寄せている。

 そうした中で経済誌では週刊エコノミストが北方領土について特集を組んでいる。少し前になるが「まる分かり 北方領土&ロシア」(11月15日号)と見出しを付け、リードには「安倍首相とプーチン大統領の“蜜月”で北方領土交渉が動き出した。日露の新時代の幕開けか、それとも期待だけで終わるのか」とある。同誌の特集は、「過熱する期待にクギ刺すロシア 経済協力は日本の“切り札”」とあるように、強(したた)かなロシアに対する日本の外交交渉を模索する。

◆お土産期待する日本

 資源価格の下落で経済が低迷し、ウクライナ問題で欧米から経済制裁を受けているロシアにとって日本からの経済協力は喉(のど)から手が出るほど欲しいもの。しかし、そこに棘(とげ)のように突き刺さっているのが北方領土問題。この問題を解決しなければ平和条約を結べず、経済協力も受けられない。かといって北方領土は渡したくないというのがロシアの本音。一方、日本はこれまで北方領土は「日本固有の領土」であり返還は「国民の悲願」だとしてかたくなに帰属を絡めて「4島返還」を主張してきた。

 ところが、こうした長年の膠着(こうちゃく)状態に対し打開のための突破口を開こうとしたのが安倍首相だった。今年5月、ロシア南部の保養地ソチでの首脳会談の際に安倍首相は「新しいアプローチ」での平和条約交渉を提案した。さらに9月、極東のウラジオストクでの首脳会談で年内のプーチン大統領来日を取り付けたのである。そこで当然、「プーチン大統領が日本に来るのだから、手ぶらでは来ないだろう。何がしかの“お土産”を持ってくるだろう」というのが日本側の期待である。

 今回エコノミストは、北方領土返還に向け学者や政治家、エコノミストを登場させて交渉の在り方を論じさせているが、論調は総じて「引き分け」論に終始している。岩下明裕・九州大学アジア太平洋研究センター教授は「『2島プラスα』……『固有の領土』の呪縛を解け」と早期解決を望む。新党大地代表の鈴木宗男氏は「まずは2島返還。残りは施政権獲得も一案」とこれまた2島先行返還で区切りを付けることを提案する。下斗米伸夫・法政大学法学部教授もまた「今回を逃したら次はない。『引き分け』で処理を」と述べ、「法的にはっきりと確認されているのは、色丹島と歯舞の2島の引き渡し。残りの2島をどうするのか。限りなく4島に近い2プラスアルファに持っていけるかが、安倍首相の外交努力となる」と述べる。

◆軍事基地化進める露

 もっとも、こうした「引き分け論」が果たしてロシアを納得させることができるかは疑問が残る。少なくとも歴史的に見て北方四島は「日本の固有の領土」なのである。日本側はそれを見失ってはならない。一方、ロシアが極東に積極的に乗り出してきたのはクリミア戦争以降である。黒海経由で南下し地中海に出る航路をふさがれたロシアは不凍港を求めて極東に着目する。その結果が日露戦争につながっていくことになる。

 現在、ウクライナ問題を抱えるロシアは欧米諸国から長期にわたる制裁を受けることでその打開の方向を極東とりわけ日本に求めているようにも見える。その一方で北方四島の軍事基地化を着々と進めているのである。ロシア海軍にとって太平洋に出る際に北方四島を含めた千島列島は要衝となっている。そうした重要拠点ともいうべき北方四島を日本側の要求通りに簡単にのむとは考えられない。安倍首相には「北方領土は戻らない。経済協力は強いられる」という最悪の状況だけはつくってほしくない。

(湯朝 肇)