カジノ法案/日本にこれ以上ギャンブル制度が必要なのか問う読売

◆どこもが批判の論調

 「人の不幸を踏み台にするのか」―。

 いつになく色をなした表現の見出しを掲げて政府の姿勢を批判するのが、読売の社説(2日付)だったので驚いた。そこで各紙をチェックすると、論旨には微妙な違いはあったものの、どこもが批判の論調である。

 その見出しを並べると「懸念解消を先送りするな」(産経・主張2日付)から「拙速なカジノ解禁は問題多い」(日経・社説3日付)、「唐突な採決に反対する」(毎日・社説2日付)といった具合。冒頭の読売は昨7日付でも「参院審議で問題点を洗い出せ」と追い打ちし、朝日(社説)の「危うい賭博への暴走」(2日付)と「『数の力』を振り回すな」(6日付)とともに、1週間のうちに2回もの批判論陣を張っているのである。

 カジノやホテル、商業施設などの統合型リゾート(IR)を推進するための法案(カジノ解禁法案)は6日に、衆院本会議で自民党、日本維新の会などの賛成多数で可決され、参院に送付された。衆院の採決では民進、自由、社民の3党が退席して棄権、共産が反対、与党の公明党は賛否が割れて自主投票となった。また自民党でも中谷元(げん)・前防衛相らが棄権した。

 この法案をめぐっては経団連の榊原定征会長も、自民党が早期成立を目指し国会審議を加速させていることに対して「拙速な審議は避け、幅広い国民の理解と合意が得られるようしっかり議論」するよう求め、強引に審議を急ぐ自民党に注文を付けるなどし、まだ理解が進んでいないのが現状である。

◆異例のスピード採決

 そもそも法案は、刑法で賭博罪に該当するので国内では禁止されているカジノの解禁に道を開くもの。海外からの観光客誘致を目指す政府の成長戦略に沿って、カジノを公認した上で大型ホテルや商業施設などと一体的に総合リゾート整備を促そうというのだが、これに伴うギャンブル依存症の増加や青少年への悪影響、暴力団の介入など弊害の大きいことを危惧する指摘も根強くある。

 このため慎重な審議が求められるのに、法案の審議が始まったのは今月1日のこと。衆院通過で早ければ9日にも参院本会議で成立も、と異例のスピードで進行している。

 あまりの加速と唐突な採決に「与野党の対決法案について、審議入り直後の採決は極めて異例」「まともな議論もせずに採決することなど論外だ」(毎日)。「カジノには国民の間に根強い反対論や拒否感があり、これまで審議できずにいた。それを突然持ち出し、まともな議論もないままなし崩し的に解禁しようとする議員たちの見識を疑う」(日経)。「わずか約6時間の衆院審議で、さまざまな問題をはらむカジノを賭博の例外扱いにしようとする。あまりに乱暴かつ無責任だと言うほかない」(読売7日付)などと新聞はあきれ果て総スカン。与党寄りとされる産経ですら「カジノ解禁にまつわる懸念に向き合わないまま、スタートラインに立つ法案を押し通すなら、国民の不信は拡大するだろう」と、政権の命取りになる懸念まで警告するほどなのだ。

◆負の面の対策先送り

 新聞が法案に激しい批判を浴びせるのは、競馬や競輪などの公営ギャンブルが不振な中で「肝心の経済効果をどれくらい見込めるかに答えていない」(産経)こと、「多くが破綻した、かつての総合保養地域整備法(リゾート法)の二の舞になる心配」(日経)など経済効果への疑問。ギャンブル依存症問題や「マネーロンダリング(資金洗浄)や青少年の健全育成への影響など他にもマイナス面の指摘は多い」(毎日)など深刻な負の側面の対策が先送りにされ「多くの疑問を残したまま、駆け込みで事を進めている印象がぬぐえない」(産経)からである。

 そうした問題のしっかりした議論を求める批判は妥当な指摘であるが、枝葉末節の議論とも言える。本質的な問題は、日本にこれ以上、ギャンブル制度が必要かどうかではないのか。そうした意味で読売は「そもそもカジノは、賭博客の負け分が収益の柱となる。ギャンブルにはまった人や外国人観光客らの“散財”に期待し、他人の不幸や不運を踏み台にするような成長戦略は極めて不健全」(2日付)、「深刻な副作用を伴う成長戦略は、明らかに筋が悪い」(7日付)とばっさり斬る。真剣に議論し考えるべきはこの点ではないのか。

(堀本和博)