朴槿恵大統領支持派のデモから「国家の危機」の声を拾った「新報道」
◆参加者を3倍水増し
世界の耳目がトランプ次期米大統領に集中しているところ、お隣の韓国の激動も小さく見えてしまう。先週日曜(20日)の報道番組はいずれもトランプ氏関連の特集が断トツだったが、退陣要求が高まる朴槿恵大統領の去就も焦点の一つだった。
韓国で国政介入疑惑が浮上し、大統領退陣や弾劾を求めるデモは12日から各報道で取り上げられてきたが、わが国でも昨年の安保法制反対デモでみられたようにマスコミが扇動的な報道をしかねない。この点、韓国メディアの在り方が気になるところだ。
デモは毎週末に繰り広げられ、19日のソウルのデモについてフジテレビ「新報道2001」、TBS「サンデーモーニング」とも「60万人デモ」と紹介していた。これは主催者発表で、本紙20日付のソウル発時事の記事は警察発表18万人とも伝えている。60万人は3倍以上の水増しである。
朴大統領と崔順実容疑者の深く癒着(ゆちゃく)した人間関係から起きた公私混同の国政介入疑惑に対する怒りは大きいことは確かだ。しかし、大通りを埋め尽くすデモによっていかに退陣圧力をかけようとも、朴大統領には辞める気がないようだ。
「サンデーモーニング」は、なぜ朴大統領は辞めないのか、に焦点を当てたが、「コリアレポート」編集長の辺真一氏が1番目に挙げた理由は「辞めたら即逮捕」で、これ以上に明白な理由はないと言える。
◆大統領の国家観探る
一方で、朴大統領の国家観、リーダー観に迫っていたのは「新報道」でコメントした、大阪市立大学教授の朴一氏だ。「強い国家というのは市民運動に振り回されるのではなくて、政治力を持った強いリーダーが国をリードしていかなくてはならない」という考えが、父親の朴正煕元大統領の影響を受けた朴槿恵大統領に宿っているという見方だ。
逮捕されかねない末路と強い国家意識、おそらくこの両方とも朴大統領をして辞任する考えがない理由であるはずだ。
番組は、朴大統領を支持するデモも取り上げ、「間違いがあったとしても国家を危機にさらすことはできない」「国の安定のため弾劾には反対だ」などの参加者の声を拾った。
このデモは警察発表で1万1000人。ソウル駅周辺で行われた。大統領退陣が韓国にもたらすダメージを懸念する声は、北朝鮮の脅威が核開発の加速により一段と高まる中で当然あり得るだろう。
また、番組は「戒厳令」に注目した。18日、最大野党・共に民主党の秋美愛代表が会合で「最終的に戒厳令までも準備しているという情報が出回っている」と発言し、韓国のサイトの検索ランキング1位に「戒厳令」がなった反響を捉えたものだ。朴大統領を支持するデモにも「戒厳令」を懸念する人が多くいたという。
◆時代錯誤の「戒厳令」
番組は辺真一氏のコメントを通して、朴大統領の父・朴正煕元大統領が1960年の戒厳令の後、61年に軍事クーデターで政権を奪取した経緯を取り上げた。一昔前の韓国は戒厳令が長く続いていたが、民主化後の今日に「戒厳令」発令を取り沙汰するのは時代錯誤の印象だ。どうしても朴大統領は父親と結び付けられる宿命にある。
政治スキャンダルの窮地を脱するために戒厳令を利用したら、それこそ北朝鮮の思うつぼだ。民衆蜂起の大義名分にされかねない。野党党首が「戒厳令」の恐れに言及しただけでも、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を通じて政権非難がとどろいており、「無責任な政治的扇動だ」と大統領府報道官が反論した通りではないのか。
わが国にとって韓国の朴政権はようやく現実的な対日外交に動き出し、懸案だった慰安婦問題、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結問題も解決した。GSOMIA締結に至っては結果的に両国政府をして時期を早めたほどだ。
朴政権は反日親中路線、国際場裏での告げ口外交などわが国にとって厳しい関係から始まったが、やっと対日外交を修復しつつある。極めて困難な状況だが、朴槿恵大統領の残り少ない任期全うと、1年後に通常通り大統領選挙が行われ政権移行することを願いたい。
(窪田伸雄)