日露会談/空気が微妙に変化したロシアへの慎重な対応求めた毎日

◆二つの顔見せた首相

 12月中旬にロシアのプーチン大統領が来日して行われる日露首脳会談を前に、安倍晋三首相は19日夕(日本時間20日朝)、訪問先のペルーの首都リマでプーチン氏と会談した。予定時間の倍の70分間に及んだ首脳会談の半分は通訳だけ同席で行い、安倍首相の地元・山口県長門市で予定する首脳会談の準備を着実に進めることを確認するなど詰めの協議をした。

 だが、日露首脳会談の主要テーマは北方領土問題と経済協力の両輪であるが、早くも領土交渉を進展させるのは「やはり容易ではない」(日経・社説22日付)、「楽観できない」(読売・同21日付)ことが明らかになってきた。

 このあたりの感触は小紙掲載リマ発の時事通信記事からも読み取ることができる。21日付の小紙第1面トップ記事は、リマでの日露会談を「領土交渉『着実に前進を』」「日露首脳 経済協力合意を確認」の見出しと、にこやかに握手する両首脳の写真。会談後、安倍首相が記者団に、北方領土問題を含む平和条約締結交渉について「解決に向けて道筋が見えてはきているが、そう簡単ではない。着実に一歩一歩前進していきたい」と語ったと伝えている。会談の具体的中身は一切明らかにしていないが、交渉が順調に進んでいるという印象である。

 ところが、その裏の第2面をめくると、トップ記事は一転して「日露首脳会談 領土交渉、見えぬ進展」「首相周辺『やはり厳しい』」の見出しである。「首相は会談後、こわばった表情…。9月のロシア・ウラジオストクでの会談後、『手応えを強く感じ取ることができた』と語ったのとは対照的だ」と報じたのである。

 同じ小紙の、同じ日に掲載された日露首脳会談をめぐる安倍首相の2つの顔(表情)。いったいどちらが本当なのか。どちらも事実なのである。ただし第1面は記者会見で見せた対外上の顔であり、第2面は周辺にこぼした本音の顔と言えよう。

◆露の態度が硬い背景

 新聞論調はそのあたりを踏まえて展開していることを分かって読むと、なかなか興味深いものがある。

 朝日(社説21日付)は「経済協力をてこに北方領土の返還を強く望む日本と、領土問題より経済協力を優先させるロシア――。鮮明になったのは、そんなすれ違いだった」と解説。続けて「戦後70年を過ぎ、なお実現しない日ロ間の平和条約。日本の政治指導者として、その締結をめざす姿勢は理解できる」と、ここでは“宿敵”である安倍首相に妙に優しいのが引っ掛かる。親中派としては日露が上手くいってほしくはないからな――と、つい勘繰ってしてしまうのである。

 安倍首相の厳しい表情について、毎日(社説・22日付)は「日本で高まる期待を沈静化しようという意図かもしれない。しかし、ロシア側の態度が予想以上に硬かったことの表れともとれる」と分析。安倍首相の思惑通りに協議が進んでいないならば、その背景に考えられる二つの要因を挙げた。一つは米大統領選で対露改善を訴えたトランプ氏の勝利、もう一つは対日経済協力の窓口だったロシアのウリュカエフ経済発展相の更迭で「(ロシアの)空気が微妙に変わっているかもしれない」として、今後の日本に「ロシア側の姿勢を見極めて交渉に臨む」慎重な対応を求めた。後述するが同感である。

◆懸念示す読売、日経

 北方領土問題と経済協力をバランスよく進めることを求めたのは読売と日経である。その観点から、12月の日露首脳会談を前にリマ会談で露呈した現状について両紙とも懸念を示した。「領土交渉に関するプーチン氏の真意がいまだ見えてこないこと」を気掛かりだと言及した読売は、プーチン氏に「領土問題の前進に向けて真剣な努力」を求めた。日経も「経済協力の具体化が進む一方で、ロシアに領土問題での譲歩がほとんどうかがえないこと」を指摘している。プーチン氏はそろそろ自ら語った領土問題での「引き分け」決着の具体的プランを示すべきであろう。

 22日現在で主張のない産経は、作家・佐藤優氏の「世界裏舞台」(20日付第1面)が参考になる。佐藤氏は、日本ではプーチン氏が「独裁者であるという見方が根強いが、それは間違いだ。プーチン氏はさまざまな権力グループの均衡の上に立つ存在」で、強い基盤に立っているわけではないと指摘する。そうだとすれば、毎日が言うロシアの空気の微妙な変化ともつじつまが合ってくる。

(堀本和博)