古典芸能への女性進出の課題を掘り下げてほしいアエラの文楽記事

◆首相補佐官にも女性

 安倍晋三首相は、政治の世界や行政府に女性を登用することを課題に掲げ、実際、最近も首相補佐官に50代の女性官僚を起用した。安倍首相がPRするまでもない、今や女性警視、警部補など犯罪防止現場の最前線でも女性が立っている。自衛隊のパイロットなども話題になった。学究分野では、例えば女性科学者に贈られる猿橋賞は毎年注目されるが、男性学者に劣らない業績を上げた人たちが次々と受賞。女性の映画監督も活躍している。

 アエラ12月9日号は「乙女文楽の華麗な世界」と題して、古典芸能の世界で、女性が活躍しているケースを取り上げている。文楽といえば一般に人形劇の人形浄瑠璃を指し、太棹(ふとざお)三味線に乗せて男性の太夫が物語を語り、舞台でも男性が人形を操るというイメージが強いが、ここにも女性が進出している。「ひとみ座乙女文楽」という一座だ。

◆女性文楽一座が好評

 もっとも、大正末期から昭和初期にかけて、女性が義太夫と文楽人形を遣う乙女文楽というのが存在していた。だから女性進出というのは、必ずしも正確ではない。一座は戦前の流れを今に伝え「普段は現代人形劇を上演するかたわら、乙女文楽の芸の習得、国内での公演やワークショップなどの普及活動をおこなってきた」。指導者も団員も女性が担っており、若手団員のなかには、文楽を知らずに劇団に入り「こんな文化が日本にあったのか」と驚いた人もいるという。この一座が海外公演を行い成功した。

 今年6月にスロバキア、ルーマニアを訪問。「義経千本桜」の上演と三番叟(さんばそう)のワークショップを行うと、どの公演も好評で満員だったという。「(前略)人形の遣い手も女流義太夫も女性ですから、舞台も明るくて華やか。良い意味でポップな印象で、初めて文楽に接する観客には親しみやすかったでしょう」という演劇評論家のコメントを載せている。

 海外での公演では、異国情緒のきらびやかさが特に目を引きつけたということもあるだろう。従って、この一座の海外でのブレークだけで、今後の文楽の盛況いかん、女性参加の可能性をうんぬんするのは正直、早計だろう。記事でも「芸の工夫は、まだまだ新しい可能性がありそうだ」という指摘があり、今後の成り行きに注目したい、といった程度の結論だ。

 むしろ、もっと注目されていいのは、この公演で乙女文楽の芸を実質的に支えた女流義太夫の竹本越孝さんや三味線の鶴澤寛也さんらの存在だろう。

 三味線の鶴澤寛也さんは、1984年に鶴澤寛八に入門し、現在は鶴澤清介の預かり弟子という立場だ。古典の継承とともに、様々なイベントを通じて女流義太夫の普及に力を入れており、2005年に、伝統文化の向上に貢献した人に贈られる伝統文化ポーラ賞を受賞した。

 この時、彼女を取材したが、古典芸能を現代に生かす武器として女性ならではの繊細な感覚を前面に出し、創作意欲に充ちていた姿を改めて思い出すことができる。津田塾大数学科卒の才女で、今後、文楽の新しい局面をどう改革するか、楽しみだ。

 一方、大神楽や講談、落語の世界でも女性演者が増えている。大神楽では、以前、男性演者の補助、あるいは場に紅一点の華やかさを提供するという役割が主だったが、最近、名だたる市中の寄席などで、主役を張っているのに出会う。単純な芸では、技術的に男性と変わらないものがある。

◆男性が司る伝統舞台

 ただ、講談や落語にしても、古典芸能の実質は、男性が作りあげた生活様式、伝統そのものであり、これまで男性が舞台を司ってきた。総じて男性演技者が培ってきたパースペクティブ(視点)による内容を女流講談師や落語家が語ることについて、やはりいつも違和感が付いて回る。

 アエラが取り上げた「ひとみ座乙女文楽」も、今のところ「女性ならではの工夫と魅力」つまり“明るく華やかな文楽”が一種のウリであり、古典芸能への女性進出の難しさが見えてくる。

 結局、改革意欲がどれほど強く、はっきり言えば男性をしのぐ芸を持ち得るか、という能力の問題だろう。男性と性が違い、能力も違う女性が古典芸能とどう切り結んでいくか、その課題を真正面から捉える記事が欲しいところだ。

(片上晴彦)