トランプ氏歴史的勝利の分析でリベラル紙にない「保守の怒り」の視点
◆米メディアの大敗北
米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が事前の予測をひっくり返して歴史的勝利を収めた。レーガンの「地滑り的大勝」(1980年)を彷彿(ほうふつ)させる劇的な大統領選だった。米メディアの大半は「クリントン優勢」としてきたが、その予測は見事なまでに打ち砕かれた。これも史上に残る「大敗北劇」だろう。
敗因は、「隠れトランプ票」を読めなかったからだという(毎日11日付「米メディア、外れた当落で『謝罪』『釈明』」)。周囲の目を恐れてトランプ支持を公言しなかった人を世論調査では拾い出せず、クリントン優勢と見誤った。
本紙12日付「上昇気流」は「支持を公言するのをためらったのは、トランプ氏の過激な発言やスキャンダルの故だろうか。それもあるかもしれない。だが、リベラルな風潮の中で自分のホンネを語れない空気が米社会にあったように思われる。彼らは、グローバル化の恩恵から取り残されただけでなく、リベラル派の理想に傲慢な独善性を感じていたのではないか」と述べている。
確かに選挙後の「トランプ大統領」を認めないクリントン支持者らの「非寛容」な過激デモは、「傲慢な独善性」を見せつけており、「隠れトランプ票」の気持ちが知れよう。
日本のメディアとりわけリベラル紙は米メディアの尻馬に乗り、クリントン優勢と信じてきた。そして寛容=クリントン、非寛容=トランプのレッテルを貼り、「アメリカ第一」「自由貿易協定破棄」「移民難民の入国制限」などに焦点を当て、ことさら反トランプ論調を張ってきた嫌いがある。それでトランプ勝利に戸惑っている。
◆リベラル革命を阻止
ここは保守紙の出番のようだ。産経のワシントン駐在客員特派員、古森義久氏は10日付「保守の怒り、国内外で変革の波」で、「米国の草の根保守勢力が民主党リベラル派のオバマ政権と後継のクリントン氏の政治姿勢に対する強烈な否定を広めたことを意味し、国内外に劇的な変革の波を起こすだろう」と指摘する。
その保守の怒りとは何か。本紙の早川俊行ワシントン特派員はずばり「『リベラル革命』の継承阻止」だと次のようにいう(10日付)。
「医療保険制度改革(オバマケア)などリベラルな政策の数々を1980年代の『レーガン革命』に匹敵すると自賛するオバマ大統領は、その継承をヒラリー・クリントン前国務長官に託そうとした。オバマ氏とクリントン氏の政治思想の源流には共通点がある。共に若い頃、米国を漸進的に社会主義化していく理論を体系化したシカゴの左翼活動家、故ソウル・アリンスキー氏の思想に傾倒していたことだ。つまり、クリントン氏が当選していたら、米最高権力者のバトンはアリンスキー氏の弟子から弟子に引き継がれていた。『米国を根本的につくり替える』と宣言し、米社会の左傾化・世俗化を推し進めたオバマ氏のリベラル革命に、トランプ氏が歯止めを掛けた意味は極めて大きい」
こういう視点はリベラル紙にはまったく存在しない。だからトランプ勝利の意味が理解できず、朝日10日付社説のように「危機に立つ米国の価値観」などと、あべこべなことを言う。
◆草の根保守が支持か
もうすっかり忘れられた感がするが、共和党が前回勝利した12年前の2004年の大統領選でも民主党候補有利の下馬評をひっくり返しブッシュ大統領が勝利したが、その原動力だったのは草の根保守だった。
当時の米大手メディアの投票所出口調査では大統領選の「最も重要な課題」として「倫理・価値」と答えた人が一番多く、その大半がブッシュ氏に投票した。全投票者のうちキリスト教右派と呼ばれる人が3割を占め、こうした人々は建国以来の伝統精神が失われ「家族の価値」が崩壊する危機感を抱いていた。
これとは対照的にケリー氏に投票したのは「無宗教」の67%、「リベラル」の85%、「同性愛者」の77%、「同性婚合法化」の77%などだった。
今回はどうだったのか。米メディアは敗北に打ちひしがれて分析を怠っているのか、黙っているのか。いずれにしても「トランプ大統領で、いいじゃないか」(産経・乾正人編集局長=10日付)と言えるのは保守だけのようだ。
(増 記代司)





