米大統領選トランプ氏勝利で公約実現に期待と不安のイスラエル各紙

◆米大使館移転を約束

 米大統領選でのドナルド・トランプ氏の勝利は世界に衝撃を呼んだ。中東政策では、オバマ政権から大きくかじを切るとみられ、強い親イスラエルの姿勢を示している。しかし、政治経験がない上に、選挙戦中の破天荒な発言、それらがどこまで実行されるのかが読めないことが、いっそう不安を呼んでいるようだ。

 トランプ氏は選挙戦中、和平交渉でイスラエルに圧力をかけないことを約束した。当事者同士の交渉で解決されるべきだからという理由からだが、イスラエル側に有利に働くのは明らか。ヨルダン川西岸でのイスラエルの入植活動に反対するなど、介入姿勢を示していたオバマ政権からの大きな転換だ。

 またトランプ氏は、米大使館のテルアビブからエルサレムへの移動を約束していた。現在、イスラエルが首都とするエルサレムに大使館を置く国はない。米国は1995年に、99年までに大使館をエルサレムに移すことを決めていたが、外交、安全保障などの理由から、クリントン大統領以降の3代の大統領は移動を延期させてきた。

 トランプ氏のアドバイザー、ジェーソン・グリーンブラット氏は10日、イスラエル軍が運営するラジオ放送ガレイ・ツァハルで、「トランプ氏のイスラエルへの姿勢は近年のどの大統領とも違う。約束は守ると思っている。トランプ氏は、ユダヤ人にとってのエルサレムの重要性を理解している」と大使館移転を実行する意向であることを強調した。

 また同氏は、トランプ氏が「入植地は和平への障害とみていない」と指摘し、イスラエルの入植活動に反対しない意向であることも明らかにした。

 いずれも、イスラエルの右派ネタニヤフ政権にとっては都合のいいものだが、パレスチナ人にとって受け入れられるものではなく、アラブ諸国、イランの反発を呼ぶのは必至だ。

◆核合意撤回なら混乱

 イスラエル紙エルサレム・ポストは、11日付電子版社説で、「エルサレムはイスラエルの統治下で統一され繁栄」しており「この現代の現実を受け入れ」これまでの「時代錯誤的」な姿勢を捨てるべきだと大使館移転の実行を強く求めた。

 一方、イスラエルのネット紙タイムズ・オブ・イスラエルは11日、トランプ氏がイスラム過激派組織への攻撃を強化するとしていること、イラン核合意を撤回すると主張していることについて「(中東)地域の保守派と独裁者の関係は改善するかもしれないが、地域の安定を損ねる可能性がある」と次期米政権の中東政策に懸念を表明している。

 トランプ氏は、過激派「イスラム国」(IS)への攻撃を強化し、せんめつさせると強く主張してきた。その一方で、シリアの反政府組織を支持しないことを明らかにしている。ロシアは、アサド政権を支援しており、今後、シリア問題などを通じて、ロシアに接近していく可能性がある。

 同紙はこれについて、「内戦はそれほどシンプルではない。…アサド大統領を排除し、反政府勢力を支援することを約束しているトルコ、サウジアラビア、カタールを怒らせ、紛争をさらに悪化させる可能性がある」と懸念を表明している。

 また、「パレスチナよりも、イスラエルのネタニヤフ首相に対して同情的なようにみえる」と指摘、「パレスチナの独立の夢に水を差すものであり、全面的な暴力的蜂起につながる可能性がある」と警告を発している。

◆入国禁止で二転三転

 同時にタイムズ・オブ・イスラエルは、トランプ氏の中東に関する発言が「曖昧で、全く矛盾している」と公約実現への不安も指摘している。「イスラム教徒の米国入国を禁止すると求めたことは、中東の多くの人々を不安にしたが、その後、その主張を弱めた。ペルシャ湾岸諸国では単なる選挙レトリックとの指摘も多い」という。

 トランプ陣営内にもこの点に関して混乱がみられる。昨年12月のサンバーナディーノ乱射事件後にサイトに掲載されていた「イスラム教徒の全面的な入国禁止」ページが投票日前後に削除され、当選確定後の10日に復活していたことが報じられている。

 イスラエル・メディアからは、トランプ氏の「実業家らしい白黒つけたがる姿勢」は複雑な中東情勢をさらに複雑化させ、混乱を招くのではないかという懸念が多く出ている。

 トランプ氏の公約がどこまで実行されるのか、中東各国は戦々恐々だ。

(本田隆文)