原子力政策に焦点を当てた連載で安全対策の不備を指摘した東洋経済

◆「最後の選択」を迫る

 2011年3月11日の東日本大震災による東京電力・福島第1原発事故は、日本の原子力政策を根底から揺るがした。この事故を契機として日本の原子力発電は大きな岐路に立たされていると言ってよい。日本のエネルギー政策において原発は“是”なのか、“否”なのか。あるいは、日本の原子力発電の安全対策は万全なのか。原子力発電所の再稼働については今なお、専門家の間でも議論がなされているところである。もっとも、二酸化炭素を排出しない太陽光や地熱などの自然エネルギーによる電源開発が進められているが、果たして原子力にとって代わるだけの代替エネルギーになり得るのか、といえばそれもまた不十分と言わざるを得ないのが実情なのである。

 そうした原子力発電の問題点に焦点を当てて、週刊東洋経済が10月22日号から連載を始めている。企画のテーマは「原発 最後の選択」。福島第1原発の大事故によって膨大な被害・損害を被ったわが国は、今後も原子力発電を続けるべきなのか。もし今後も続けるのであれば、どういった問題をクリアすべきか。同誌は「国民の視野の外にある問題を追求した」とうたっている。1回目のテーマは、「国民に8兆円の請求書」(10月22日号)。福島第1原発の費用を国民が負担する可能性について論じた。2回目のテーマは「もんじゅ廃炉へ」(10月29日号)とし、高速増殖炉もんじゅの今後の在り方を説く。そして3回目のテーマは、「原発の安全対策は大丈夫か?」(11月5日号)と題して、日本の原発環境の弱点を取り上げた。

◆テロリストの標的に

 これまで三つの連載企画の中で筆者が目を引いたのが、3回目の日本の原発の安全対策である。とりわけ、ミサイル攻撃やテロに対する核セキュリティーを確保しているのか、ということである。

 ちなみに、日本の原発は「テロに極めて弱い」と指摘は以前からあった。例えば、本紙8月15日付8面に登場した公益社団法人隊友会北海道隊友会連合会の酒巻尚生会長は、「北海道には日本海に面した北電の泊原発がある。しかし、ここで警備している人間はほんの数人の警察官のみで、テロリストに太刀打ちできるものではない。海外からのテロを想定した警備にはなっていない。ましてやミサイル開発など進めている北朝鮮を隣国に持っている日本は、原子力の安全保障をもっと考えた対策を講じる必要がある」と警鐘を鳴らしていた。

 そして酒巻会長と同じ主張が同誌に展開してされている。すなわち、「福島事故は、原発がテロリストにとって格好の標的になりうることを明らかにした」(板橋功・公共政策調査会研究センター長)と指摘し、「日本の原発のセキュリティー対策は、ハード面、ソフト面ともいまだ十分とはいえない。訓練を増やすなど警察による警備態勢の一層の強化や、新たに導入が予定されている個人の信頼性確認制度(社員や作業員の身元確認)の着実な運用と定着など、取り組むべき課題は多い」(同)と訴えている。

◆自衛隊法の改正必要

 さらに今回、同誌が論調として踏み込んだのは、元陸上自衛隊幕僚長の冨澤暉氏を登場させ、自衛隊法の改正を求めたことである。冨澤氏が言うには、「(警察などを中心とした)治安活動では、武器使用の範囲が、正当防衛の範囲内に厳しく制限されるため、テロリストに対処しきれない」とし、「原発テロの実態に即した自衛隊法の改正が必要だ。さもなくば自衛隊に対して地域を限定した防衛出動を命ずるべきだ」と自衛隊出動についても言及している。

 もちろん、現在でも治安出動における警察と自衛隊の連携訓練はされているものの、実際にテロが起こった時、実効性のある対応ができるかといえば、それは難しいのが現実。東洋経済は同号で、海外で起こった事件、すなわちオーストラリアの研究用原子炉爆破計画発覚(2000年)や南アフリカの核施設襲撃事件(07年)、ベルギーの連続テロ事件(16年3月)を紹介し、テロが単なる絵空事ではないことを訴える。

 今回の連載は、「緊急連載」と銘打っているが、まさにテロ対策は急務であろう。加えて、これまで経済誌は原発の安全性についても論じることは多々あったが、他国からの安全保障という側面から安全対策を論じることは少なかった。東洋経済は、その点について現実的な問題として採り上げ、正論を載せたことは評価に値する。

(湯朝 肇)