米での新規原発稼働でエネルギー政策の現実的な提言行う読売、産経
◆現実的視点を再確認
米国で20年ぶりに新規の原子力発電所が営業運転を開始した。米南東部のテネシー州などに電力を供給しているテネシー渓谷開発公社のワッツバー原発2号機である。
1970年代に建設が始まったが、79年の米スリーマイル島原発事故を受け、工事は中断。規制強化による建設費の増加や電力需要の低迷予想などがその理由だが、2000年代に入って、温暖化対策として二酸化炭素(CO2)を排出しない原発が見直され、07年に建設再開が決まる。その後、11年の福島事故を踏まえ、非常用電源や冷却水の確保など安全対策が追加され、10月の営業運転にこぎ着けた。
このニュースに社説で論評したのは、これまでに読売と産経の2紙だけ。読売は先月25日付で、「米の新規原発/運転実現を日本も参考にせよ」、産経は31日付で「20年ぶりの原発/米国は世界の潮流読んだ」の見出しである。両紙とも、参考にすべき現実的な視点を、改めて再確認させる内容となっている。
例えば、読売社説冒頭の「原子力発電が、米国のエネルギー政策の重要な柱であることが改めて示された」である。
米国では、100基の原発が運転しており、電力供給の20%近くを占める。シェールオイルの増産から、火力発電が主役の座にとどまるものの、「米政府は、エネルギー安全保障の観点から、原発を将来も今の水準に保つ方針だ」と同紙は指摘するが、その通りである。
◆誇張でない産の警告
また、長らく原発の新設が途絶えたため、「懸念されたのは、関連技術の衰退や人材の減少である」と指摘。そのために、同紙は米政府が00年代半ばから、新型原発の研究開発や関連企業育成などの強化。産業界も大学との連携拡大、就職支援などに力を注ぎ、原子力潜水艦で経験を積んだ海軍出身者も原発の運営管理に積極的に取り組んだ、ことなどを列挙する。
米国でも、反原発の声は少なくないが、同紙は「それでも新規の運転にこぎ着けたことは、原発の継続的利用を掲げる日本の参考になる」と強調するが、同感である。
産経社説も同様に、シェールオイルの登場で米国では火力発電の競争力が増しているにもかからわらず、「原発が完成して電力供給を開始した点に注目したい」とした。
産経は、今回開始したワッツバー2号に続いて、米国では19~20年の運転開始を目指す4基の原発が進んでいることから、「1979年に起きたスリーマイル島原発事故で生じた原発への不信感からの回復であり、原発積極活用の回帰である」と強調する。
そうした米国に比べて、日本の現状は、最多時に55基あった原発は福島事故後42基に減り、発電しているのは2基のみで、司法判断の仮処分で停止に追い込まれたままのものもある。産経は、「こうした状態が長引くとエネルギー資源小国の日本の遠くない将来に、後悔のほぞをかむ痛恨の事態が暗い口を大きく開けて待ち構えることになる」と警告するが、決して誇張ではないだろう。
同紙が指摘するように、その前触れとして、電力会社で原子力部門の社員の離職率が高まり、若手の原子力離れが始まっている状況や、長引く稼働停止で原子炉の運転経験の不足によるオペレーション技術の劣化も、「憂慮される状況」(同紙)なのである。同紙は「日本の原発の停滞脱却が急務」と説くが、その通りである。
◆危機意識のない東京
これに比べて、あまりに対照的なのが、東京29日付社説「ドイツの大転換/民意こそエンジンだ」である。
これは直接的に、今回の20年ぶりの新規原発稼働について論評したものではないが、同紙が日頃から「原発は危険」と反原発を唱えるように、この社説は福島事故のあった11年のドイツで「民意」が「エンジン」となって、エネルギー政策を転換させたと強調する。
同国のシュタインマイヤー外相の「国民の八割以上が再生可能エネルギーの拡大に賛同しています」との手記の一例をもって、欧州全体の民意が反原発であるかのような書きぶりである。フランスが原発の大推進国であることをみても、同紙の主張がいかに誇張したものであるかが分かるが、それととともに、同紙には日本のエネルギー事情について、産経のような危機意識も全くない。
(床井明男)