厚労相答弁を曲解した虚偽報道で野党の「安倍叩き」後押しした朝日
◆捏造を容認する体質
「角度をつける」。日常会話ではめったに使わないが、物事の見方を決め、意味づけることを言う。ここでの角度は角の大きさでなく「角度を変えて考えてみる」といった具合に使う角度のことだ。
朝日は「従軍慰安婦」問題や原発事故の「吉田調書」の捏造(ねつぞう)報道をめぐって、社内で「角度をつける」と語っていたと暴露された。朝日が正しいと考えることは正しいのだ。そんな角度をつける姿勢が長年にわたって捏造を容認し、唯我独尊的な体質をもたらしたと批判された。
その朝日が懲りずにまた記事に角度をつけ、謝罪を余儀なくされた。22日付1面肩に「年金 不適切な試算/厚労省 支給割合高く算出」との見出しで、厚労省を批判する記事を掲載したが、これがとんでもない誤報だった。わずか4日後の26日付に「訂正して、おわびします」との記事掲載に至り、朝日にしてはあっけない「白旗劇」となった。
記事は21日の衆院厚労委員会での塩崎恭久厚労相の答弁を基にしたもので、厚労省が「不適切な計算方式」を使い、現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合(所得代替率)が高く算出されるようにしていたとした。また政府は厚生年金の所得代替率について「50%以上を維持」を公約しているが、将来的に割り込む可能性が高くなったと断じた。
つまり国民に支給される年金額を「インチキ計算」で高く算出されているように見せかけ騙(だま)している。安倍政権の「公約破り」だ。そう言わんばかりの記事だった。
◆「取り消し」にすべき
折しも年金は臨時国会の争点で、民進党は政府が提出している年金制度改革関連法案を「年金カット法案」と名付けて攻撃している。朝日記事は野党の安倍叩きを後押しする意図がありありだった。野党もこれに飛びつき、「イージーな計算ミス。年金関連法案は取り下げるのが筋」(蓮舫・民進党代表)などと政府批判に使っていた。
それが虚偽報道だったのである。所得代替率の計算方式は国民年金法などで定められ、厚労省が別の方式を選択する余地はまったくなく、「50%以上」の確保も同法などで定められていた。
朝日は塩崎恭久厚労相が「年金の試算について『役割を果たしていないこともありうる』と述べ、不十分だと認めた」としたが、同相は計算方式を変えた場合の所得代替率について「物差しとしての役割を果たせないこともありうる」と述べていた。おわび記事では答弁内容を取り違えていたとしている。記者の国語力を疑わざるを得まい。
おわび記事も怪しいものだ。見出しには「訂正して、おわびします」とあるが、本文にはおわびの、おの字もなく、わびる相手が誰であるのか皆目分からない。むろん塩崎厚労相や厚労省、それに読者に対してわびるべきだが、そこに顔も向けず、不承不承に口先だけでわびている、まるで悪ガキの図である。
それに記事は本来、訂正でなく「取り消し」にすべきものだ。厚労相発言を180度取り違え、それを前提に書いているのだから、記事は土台から崩れている。訂正という次元の話ではない。正真正銘の虚偽報道だ。それを訂正でお茶を濁す。こういう態度が角度をつける唯我独尊のそれである。
◆誤報を看過しない読
この一件について他紙は「またか」とばかりに小さく冷ややかに扱っているが、ライバル紙の読売は看過せず、メディア欄で年金試算の朝日の誤報と事実関係の一覧表を作り「厚労相答弁を『曲解』」と指弾している(27日付)。
その中で朝日の元ソウル特派員の前川恵司氏や元研修所長の本郷美則氏のコメントを掲載し、「朝日が抱える本質的な問題が改善されていない」(前川氏)と追及している。
ところで角度をつけるのは共産党のお家芸だ。レーニンは無知な大衆(プロレタリア)を指導する「前衛党」の必要性を説き、すべての価値判断を党それも党中央が下す仕組みをつくった。そこから一党独裁や粛清が生じたことは歴史が証明している。朝日の角度をつける態度がそうしたイデオロギー性に由来しているとするなら、それこそ前衛党新聞(すなわち「しんぶん赤旗」)という他なくなる。
(増 記代司)