三反園知事の原発停止要請を拒否した九電回答を評価した産経社説

◆知事に停止権限なし

 九州電力の瓜生道明社長は5日、鹿児島県の三反園訓知事から要請されていた川内原発の即時停止について、応じない方針を回答した。

 熊本地震で県民の不安が高まっているとして、直ちに原発を停止し、入念に行うよう求められていた設備点検は、知事の要請とは関係なく、定期検査(1号機は10月6日、2号機は12月16日から)で2カ月余り原発を停止して行うからである。

 九電の回答は知事の要請を全く無視するというものではく、定期検査に合わせて、原子炉や使用済み燃料プールなどに関する特別点検を実施。検査に入る前の原発運転中も、前倒しが可能な点検は行う方針という。

 三反園知事は九電の回答に対して「極めて遺憾だ」と表明したが、その言葉は知事の即時停止要請そのものに対して当てはまるのではないか。知事には原発を停止する法的権限がないからである。

 さて、新聞評である。前述の九電の回答について、産経は6日付で、「知事は対話をなぜ避ける」との見出しの「主張」(社説)を掲載した。

 同紙は、三反園知事が即時停止要請を出した際、唯一、論評がなかったが、今回の九電の回答に合わせたかのような反応の速さである。

 そして、その評価は「適切な判断、対応である。知事の強権に屈して妥協するのではなく、原発の安全を最優先に運転継続を図る。電力の安定供給と二酸化炭素の排出削減という、電力会社の社会的使命を貫く姿勢も同時に示すものと評価できる」というものである。

 逆に回答に難色を示した三反園知事に対しては、「『再度の一時停止要請を検討する』としているのはおかしい」というもので、全く同感である。前述したように、知事には運転中の原発を止める法的権限がない、からである。

◆反原発票当てに出馬

 産経は、三反園知事の一連の行動について、「7月の鹿児島県知事選での三反園氏の選挙戦略に端を発している」とその事情を明かす。出馬を取りやめた反原発派陣営との調整で「川内原発の停止」などを公約に盛り込んだ経緯がある、というわけである。

 だから、同紙は「本来、無理筋の公約だった」にもかかわらず、九電に即時停止を要請したのだが、「法的根拠を欠いた自らの公約の尻拭いを、九電に一方的に押しつけるに等しい行為を重ねているとみなされても仕方ないだろう」と手厳しいが、その通りである。

 産経はさらに、そんな三反園知事に「原発の安全性のさらなる向上を目指すのであれば、立地自治体の薩摩川内市などとの意見交換が欠かせない」と提言する。就任から1カ月以上経つが、「三反園氏は必要不可欠な努力に背を向けている。まずは膝を交えての話し合いを勧めたい」。もう完全なダメ押しである。

 もともと、三反園知事の停止要請そのものが、社説で論評した読売に言わせれば、「理解に苦しむ」(8月27日付)ものだった。

 三反園氏は具体的な危険性を示しておらず、検証を求めた項目も、「原子力規制委員会の審査で確認済みのものばかり」だったのである。

 しかも、熊本地震の際に、川内原発の敷地内で観測された揺れは、耐震性能の評価時の想定より遥かに小さかった。九電の直後の点検でも異常はなく、規制委も即時停止は必要ないとの見解である。

 日経(30日付社説)も、三反園氏の要請に「その中身や根拠には疑問が少なくない」と指摘する。川内原発は規制委の安全審査に合格し、前任の伊藤祐一郎知事や薩摩川内市の同意を得て、昨年8月に1号機、10月に2号機が再稼働した。三反園氏が課題とした避難計画は、「もともと県や地元自治体の責任で作ったもの」(同紙)なのである。

◆困る朝毎ご都合主義

 これに対して、朝日(27日付社説見出し)「九電は懸念と向き合え」、毎(同)「知事の停止要請は重い」、東京(同)「真価は秋に示される」など、朝毎・東京は三反園氏の肩を持つ。

 朝日、毎日などは自治体トップの判断は重いというが、それなら、再稼働に同意した前知事の判断なども重いはずである。だが、これでは前へ進められない。だからこそ、専門的な知識と経験を有する規制委という存在があるわけである。朝、毎などのご都合主義には甚だしく困ったものである。

(床井明男)