リオ五輪の前半戦総括、福原愛選手への評価で新潮と文春に温度差
◆内村選手に嫁姑問題
日本人選手のメダルラッシュで湧いたリオ五輪が閉幕する。前半には体操、水泳といった得意種目で期待通りの結果を出し、後半も卓球、バドミントン、レスリングなどで好成績を収めた。
4年に1度の大会で結果を出すということがアスリートにとってどれほど難しいことか、部外者にはなかなか分からない。コンディション調整はもとより、この日に100%力を出し切る不屈の精神力は称賛に値するものだ。だからこそ観ている者に感動と喜びを与える。
各誌は前半を総括する特集を組んでいる。週刊新潮(8月25日号)は「ワイド特集やがて哀しき『リオ五輪』」を、週刊文春(8月25日号)は「総力取材リオ五輪『裏ドラマ』」を載せた。真正面から取り上げるのはスポーツ誌でいい。週刊誌たるもの、斜めから、裏から、語られないエピソードを引き出してくるのが“使命”だ。
両誌とも取り上げたのが、団体、個人総合とも金を獲得した体操の内村航平選手。世界のトップを維持することの難しさ、それを支えた家族や仲間…、そんな話を期待するが、くしくも両誌とも体操に関係ない「嫁姑問題」だった。競技が終わった後だからいいようなものの、試合中にこの記事が出れば、内村選手の心を乱したかもしれない。
◆交際中の福原選手
「ティファニー一揃い100万円」の記事は、卓球の福原愛選手についてだ。彼女が身に着けている装飾品が高価だという話である。「交際中の台湾人卓球選手・江宏傑(27)からの贈り物だと噂されている」(新潮)という。「4位に終わった」のは、「男の存在もあって卓球に集中できていない」“浮ついた”態度にあるとでも言いたそうだ。
確かに個人ではメダルに届かなかった。だが、同誌が刷り上がった日に団体は銅メダルを手にしている。前回のロンドン大会では銀だった。一つランクが下がったとはいえ、試合を見ていれば、メダル獲得がどれほど大変だったかが分かる。そこには“浮ついた”福原選手はいなかった。キャプテンとして、競技だけでなく生活面でもチームをまとめてきた努力があったことがうかがわれた。
「卓球に詳しいジャーナリストの青柳雄介氏」は「特に準々決勝が素晴らしい出来で、かつての福原からは想像できない戦いぶり」と絶賛し、4位でも「及第点をつけて」いる。このコメントを聞きながら、「これじゃあ勝てない!」と見出しを付ける同誌の感覚が分からない。
文春も「ネックレス」のことを取り上げているが、それでも「福原にとって、この四年間は苦労の連続だった」とし、結果を出せたのは「“愛の力”だと話題になっている」と紹介しており、新潮にはない“温かみ”を感じる。
◆井上監督“一本勝ち”
女子柔道で唯一金メダルを取った田知本遥選手を文春は「『一度投げたら“10倍返し”された』男子選手の恐怖体験」を紹介し、彼女の負けず嫌い、自分を追い込む激しさを伝えている。
一方、新潮は「野獣から普通の女の子に変えた1500日」として、前回の金から銅に終わった松本薫選手を取り上げた。ロンドンでの鮮烈な野獣イメージから比べれば、今回は迫力に欠けた面はある。結果を出せなかった原因の一つにスタイル改造があった。相手を圧倒して優勢を取っていくスタイルから、一本勝ちへと変えようとしたことを所属チームの監督は同誌に語っている。
昨年、「従来の“攻撃スタイル”に戻した」が、「気持ちの変化」と「闘志のコントロール」の難しさを体験したことがよく分かる。
納得したのは文春の「柔道メダルラッシュで露呈した“タレント”篠原信一の監督力」の記事だ。結果は残酷なほどに井上康生監督との実力差が明らかになった。「井上氏の鮮やかな“一本勝ち”」である。
篠原氏は監督時代、「練習方針は根性論の一辺倒で数をこなすだけ。指導方法はガミガミと怒るだけ」(柔道担当記者)だったようで、選手の信頼も得られず、大きな溝があったという。もはや“柔道タレント”も返上した方がよさそうだ。
後半もメダルラッシュが続いている。リオ五輪も終わる今週には、もう少し読み応えのある特集を期待したい。
(岩崎 哲)