経済対策に「規模ありき」と批判する朝、毎などにない「成長」の視点
◆景気の下支えに意欲
参院選で大勝した安倍晋三首相は選挙後早々に、石原伸晃経済再生担当相に経済対策を策定するよう指示した。22日付本紙の報道では、事業規模が20兆円程度とする方向で調整が進められている。
国の財政事情が厳しいため、国の歳出は最小限にとどめ、民間事業に低利で融資する財政投融資や政府系金融機関による貸し出しなどを増やして事業規模を積み増すという。当初は10兆円とみられていただけに、規模の倍増は景気を下支えするという安倍政権の強い意欲の表れと言える。
しかし、こんな記事を目にすると、朝日、毎日、東京がどんな反応を示すのか気になってしまう。3紙は先の安倍首相が指示した経済対策に関する社説で、いずれも「また『金額ありき』か」(朝日13日付)などと批判する論説を示していたからである。
朝日は安倍首相が「アベノミクスのエンジンを最大にふかす」「内需を下支えすることができる、総合的かつ大胆な対策」と繰り返す言葉からも、「景気対策のための財政出動であることは明らか」で「金額ありきの旧来型」と批判する。
経済の構造を変えずに企業向けの補助金や融資を膨らませ、消費を喚起しようと家庭に商品券を配っても、一時的な下支えやカンフル剤にしかならず、財政悪化を招きかねない。財投利用についても、かつて「第2の予算」と言われるほどに肥大化し、2001年度の財投改革で「民業補完」を掲げて縮小に努めてきた歩みを逆行させようというのだろうか――というわけである。
◆具体性欠く朝日の案
そういう朝日が「必要なのは」と強調するのは、「為替相場に左右されにくい企業体質へ改革を促しつつ、利益をため込みがちな企業から家計へとおカネが回る仕組みを作っていくこと」。
一般論として確かに聞こえはいいが、具体的には何をどうしようというのか。内需関連の事業へ重点を移す、あるいは海外に事業拠点を構築する、また利益を社員、従業員により多く分配するような税制変更の話なのか分からないのである。
毎日も批判の内容はほぼ同じで、さらに「まず疑問なのは対策の必要性だ」とし、「目先の景気てこ入れではなく、日本経済を息の長い成長に導くような政策に腰を据えて取り組む好機」と強調。その政策の一つが、少子化対策だという。少子化対策が進めば、国内市場の縮小を食い止める効果も期待できるが、首相が指示する対策の多くは公共事業だ、との批判である。
しかし、国民の多くが景気対策を求め安倍政権を支持したことを思えば、対策の必要性は議論の余地なしで、毎日の論は独り善がりの誹(そし)りを免れまい。景気の現状からも、また英国の欧州連合(EU)離脱の影響が見通せない不透明感が強まる先行きからみても、低迷状態から脱する契機として、一時的ではあったとしても景気を上向かせる対策は欠かせないはずである。
◆規模より中身が肝心
その点で、「景気を下支えする補正予算を編成し、秋の臨時国会で成立させることは理解できる」とした読売社説(12日付)は妥当である。
読売は「肝心なのは、対策の規模ではなく、中身である」として、「民間投資の呼び水となるような財政出動を優先すべきだ」と強調するが、これまたもっともな指摘である。
そして、さすが経済紙と感心したのは日経社説(12日付)である。
同紙は、安倍首相が選挙戦中、全都道府県で有効求人倍率が1を上回ったことをアベノミクスの成果として強調した点に触れ、「しかし求人がそこまで増え、失業率が3%台そこそこに下がったのに、ゼロ%近傍の経済成長しかできないのが、いまの日本の実力だ」と指摘。「成長率が上がらないと、税収が低迷して社会保障制度を保てなくなる。将来世代を『惨めな未来』から解き放つことは、政治の責任だ」と強調したが、同感である。社会保障制度ではもちろん、年金や医療、介護を一体的に改革することも大事だが、成長も大事だということである。
「経済の実力を高めることが大事」として、再分配による格差の縮小や、消費を担う中間層を厚くする、社会保障の再構築も待ったなし、と説く東京(13日付社説)、朝日、毎日に欠けているのが、日経が指摘した「成長が大事」という視点である。
(床井明男)