改憲「3分の2」で大勝の安倍政権に経済最優先求めた読、日経、産経

◆改憲の発議に現実味

 「道半ばにある経済政策アベノミクスを強化し、デフレ脱却を確実に実現してほしい。それが有権者の意思だろう」(読売社説・11日)。

 朝日社説(同)が「歴史的な選挙となった」と言う10日投開票の第24回参院選は、自民、公明の与党が改選過半数の議席を獲得して大勝した。これで自民党は政権交代した2012年衆院選からの国政選挙で4連勝である。また2議席から7議席に躍進したおおさか維新の会、非改選の日本のこころを大切にする党の改憲4党に改憲支持の無所属議員を合わせると、憲法改正案の国会発議ができる「3分の2」を超えた。改憲の発議が現実味を帯びてきたことは確かである。

 今回の選挙結果について、テレビである解説者は「風が与野党どちらにも吹かなかった結果」だと解説していた。風とは、民主党政権(鳩山由紀夫首相)を誕生させた平成21年8月の総選挙で吹きまくった政権交代を求めた旋風のこと。この選挙で民主党は絶対安定多数を超える308議席を獲得し、以後、3年3カ月の間に鳩山、菅直人、野田佳彦政権と続いたが、いずれも内紛に明け暮れ、失政続きに加えてものごとを決められない政権に国民の期待は大きく裏切られたのである。

◆野党共闘へ風吹かず

 今回の参院選で風が吹かなかったのは、風に煽(あお)られて下した判断の代償に国民は懲りたからであろう。選挙期間中に見たEU離脱を決めた英国の国民投票も影響したのだろう。結果が出てから、離脱派のEU離脱の利を説いた内容が相当にいいかげんだったことが分かり、それに賛成した人たちの狼狽(ろうばい)、後悔の表明が盛んに報道された。そのあまりの多さへの驚きが、私たちにも安易に風に乗ることのリスクを考えさせ、熟慮の上に行う慎重な判断へと向かわせたのではなかろうか。

 選挙戦で安倍晋三首相と自民、公明の与党は終始「アベノミクス継続」の是非を問うたのに対し、民進党や共産党など野党4党は共闘して「改憲3分の2阻止」を争点に風を吹かそうと躍起になり、朝日もキャンペーンを張ったが、もう風は吹かなかった。「選挙戦で、改憲勢力による3分の2確保の阻止をかかげて戦うなど、まるで一昔前の社会党のようだった」(日経社説・11日)のである。

 その結果、言わば「改憲阻止」を無理に争点に押し込み独り相撲をしてこけたわけで、改憲の発議ができる形に自ら呼び込んでしまったのは皮肉というほかない。

 選挙結果は同時に、3年余の民主党政権に懲りた国民の民進党不信の根深さを改めて印象付けた。1人区での共産党との共闘がこれに輪を掛け、東日本では共産党票の上乗せで勝ち奏功したものの、全般的には野合批判が高まり、民進党支持だった保守票が逃げてしまったことは否めない。

◆民共路線の清算説く

 野党共闘についての各紙(11日)の評価も、朝日だけは「巨大与党に対抗するには野党共闘が最も有効」と評価するが、他は「共産党との共闘戦略も見直しが必要だろう」(毎日)、「民進党に親和的だった中道保守の票が民進党に行きにくく」なり、「民共路線は与党を利する一面があった」(日経)などいずれも否定的。小紙は「日米安保破棄を唱え、防衛費を『人を殺すための予算』と誹謗(ひぼう)する共産党とは根本的に相いれない」として、民進党に政権交代可能な政党になり得るために、「民共」路線の清算と解党的出直しの必要を説いた。

 一方で、独り相撲で無理に争点化した民進党の「改憲3分の2阻止」に乗ってきた朝日は、今回の選挙結果を「憲法改正に国民からゴーサインが出たとは決していえない」とごねる。もし民進党が勝っていたら、整合性から「国民からノーサインが出たとは決していえない」となるのだが、果たしてそう言えるのだろうか。屁(へ)理屈と膏薬(こうやく)はどこにでも付くものと、つくづく感心するのである。

 参院選の結果を受けて、日経は安倍政権に「ここはまず経済再生に政権の力を集中し改憲は議論段階として取り組んでいくのが適当だ」と説く。産経も「いまだ果たせていないデフレからの脱却を急がなければならない」ことを第一に挙げた。冒頭の読売も「安倍政権は、経済最優先の方針を堅持することが大切」なのである。

(堀本和博)