「改憲3分の2」阻止で野党支援キャンペーン張った朝日社説の完敗
◆統一候補擁立を称賛
今回の参院選の注目数字は61、57、78、74。毎日9日付にそんな分析記事が載っている。何の数字かというと、獲得議席数のことだ。
61は与党が改選過半数を獲得する数で、安倍晋三首相が「信を問う」とした勝利ライン、57は自民党が27年ぶりに参院での単独過半数を獲得する数、78は改憲4党で発議に必要な参院の3分の2超え、74は改憲を支持する非改選の無所属議員を加えた3分の2超えの数だ。
投票結果を見ると、安倍政権は61はクリアしたが、自民党は57にわずか1議席届かず、単独過半数は逃した。改憲4党は78にこれも1議席及ばなかったが、74は超え実質的に「改憲派3分の2超え」に成功した。民進党の選挙用パンフには「まず2/3をとらせないこと」とあったから、護憲派野党の完敗だ。
まず3分の2を取らせない。それは朝日も同じで、「改憲3分の2阻止」へ野党支援キャンペーンを張ってきたから、朝日にとっても完敗だった。
6月以降に、参院選を扱った朝日社説は計24本。6月22日の公示以降では16本に上った。それらを読むと、朝日の思惑が透けてくる。
まず1人区で民進党と共産党など護憲4党が統一候補の擁立を決めると「参院選 野党共闘 わかりやすくなった」(6月10日付社説)と改憲阻止の共闘を称賛し「選挙後も、その実現に力をあわせることが求められる」と、反自民連合を促した。
◆野党への投票を促す
公示日の22日付社説のタイトルは「戦略的投票でこたえよう」。「戦略的投票」とは、「最も評価しない候補者や政党を勝たせないため、自分にとって最善でなくとも勝つ可能性のある次善の候補に投票することだ」という。
いったい誰に投票せよと言うのか、その答えは朝日発刊の現代用語事典『知恵蔵』(ウェブ版)にあった。「戦略的投票」についてこうある。
「小選挙区制は二大政党制をもたらすという有名なデュベルジェの法則があるが、その法則の背後には、『戦略的投票』の考え方がある。例えば、共産党の候補が自分の主張に最も近いとしよう。小選挙区でその候補が当選する確率が小さい場合、自民党候補を勝利させないために『戦略的』に次善の民主党の候補に投票することがある。反自民党票が民主党と共産党に分散されるとすれば、自民党が漁夫の利を得ることになる」
これは蒲島郁夫・東大教授が2007年版で記したもので、民主党を民進党に置き換えれば分かりやすい。社説の小見出しには「『悪さ加減』を選ぶ」とある。どうやら朝日は自民党の「悪さ加減」が最もひどいから、勝たせないため1人区では民進党候補に投票しようと言いたいらしい。
23日付社説「安保法制 誤った軌道を正せ」はこう言った。「いまからでも遅くない。『違憲』の法律は正す必要がある。長期的にみればそれが立憲主義を立て直し、日本の安全保障の土台を固めることになる」
その上で「(安保法制に代わる)もう一つの選択肢は用意された。民進、共産、社民、生活の野党4党は市民連合とともに、安保法の廃止と集団的自衛権の行使を認めた閣議決定の撤回を共通政策に掲げている」とした。「誤った軌道を正せ」とはこれも野党への投票を促すものだった。
◆改憲阻止へ檄飛ばす
7月8日付総合面には「3分の2で攻防 60年前も/改憲 野党が争点化、躍進で阻止/2016参院選」との見出し記事が載った。保守合同で自民党が誕生し最初の国政選挙となった1956年7月の参院選では、自民党は改憲をあまり言わず、これに対して野党が焦点化して躍進し、3分の2超えを防いだというのだ。この故事に倣い、今参院選でも阻止せよ。そんな檄(げき)を飛ばすような記事だった。
選挙戦最終日の9日付社説は「あす投票 有権者の『知る義務』」。どんな「知る義務」なのかというと、「自民党の改憲草案が、いかに権力への縛りを緩めて、国民を縛る内容か。個人の権利より、どれだけ『公の秩序』を重視しているか」などとしている。
こんなふうに最後の最後まで「改憲3分の2阻止」を叫んだのが朝日だった。「この選挙は歴史の岐路になる可能性がある」(9日付社説)。この見方だけは正しかった。
(増 記代司)