参院選公示をテーマの論調で言論本来のあり方を示した朝、産、小紙

◆読などは無難な結び

 「アベノミクス継続」か、はたまた「政策転換」か--。

 中国の軍艦がこのところ沖縄県尖閣諸島周辺などのわが国領海や接続水域への侵入を繰り返し、中谷元(げん)防衛相が自衛隊に迎撃破壊措置命令を出し備える中で北朝鮮が弾道ミサイル「ムスダン」を連続発射させた昨日、第24回参議院議員選挙が公示された。7月10日の投開票に向け、選挙戦の火蓋が切られたのである。

 今回の参院選は、前回より40人ほど少ない約390人が立候補するものとみられる。第2次安倍内閣の発足から3回目の国政選挙で、参院選は2回目。有権者が18歳以上となる初めての選挙となる。

 また1票の格差是正のため改革された選挙制度で行われる初めての選挙でもある。選挙区では1人区が増えて32となり、「鳥取・島根」と「徳島・高知」は合区となった。

 昨日の各紙論調は一斉に「参院選公示」をテーマにワイドスペースに拡大して論じたのに、その結びが無難な、建前に縛られたきれいごと、ありきたりの結論で終わったので歯がゆい。例えば、こんな具合である。

 「新たに選挙権を手にした18、19歳の約240万人を含め、有権者は、各党の訴えをしっかりと吟味し、誤りなき選択をしたい」(読売)。

 「約240万人の新有権者の政治参加が期待される。/未来に責任を持てる政党や候補を選ぶ時だ。18日間の舌戦にじっくりと耳を傾けたい」(毎日)。

 「与野党は互いに揚げ足を取るのではなく、次世代にどんな日本を引き継ぐのかという骨太の政策論争を展開してほしい」(日経)。

◆社説は旗幟を鮮明に

 これらの社説に共通するのは、いずれも参院選について総論で論じていることで、それも床の間の飾りのようである。新聞は公正・中立であるべき、という格好や形だけの建前に縛られるからであろうが、報道記事はそうだとしても、論説(社説・主張)はそろそろ建前で言うのを卒業して海外メディアのように旗幟(きし)を鮮明にすべきではないだろうか。

 そうした視点で読むときに、その主張に対する賛否は別にして朝日、産経、小紙の3紙はそれぞれ特色ある切り口で社論を掲げた。本来の言論のあり方を示したと評価できる。

 この参院選を「『政権の中間評価』ではすまない重みがある」とみる朝日は、「安倍首相が前面に掲げるのは経済だ。一方、その裏に憲法改正があるのは明白だ」と警戒を呼び掛ける。そして、自公与党が3連勝した12年以降の衆参両院の選挙には「投票率が低い」という共通の特徴があると指摘。民主党政権を誕生させた09年衆院選の69%台と14年衆院選52%台とでは「1700万あまりの人が投票所に行くのをやめた」。この間、自民党の「得票数に大きな変動はない」と分析した上で、有権者に「自らの一票を有効に使う『戦略的投票』」なるものを次のように勧める。

 「最も評価しない候補者や政党を勝たせないため、自分にとって最善でなくとも勝つ可能性のある次善の候補に投票することだ」と。かつて、露骨な民主党贔屓(びいき)で顰蹙(ひんしゅく)を買った朝日だが、その前歴に恥じない面目躍如ぶりである。

◆安保に重点置く産経

 産経は「軍事力による威嚇、挑発をためらわない中国、北朝鮮などにどのように対応していくべきか」と、外交・安全保障に重点を置いた問いを発した。深刻さを増している日本が直面する内外の危機を前に、参院選では国家と国民の生活をどのように「守っていくかの構想力が問われている」と説く。

 その観点から、民進党の岡田克也代表が「自衛隊を『憲法違反』と断じた共産党の志位和夫委員長とともに安全保障関連法の廃止を主張しているのは、無責任のそしりを免れない。国民の生命と安全を守る責務を、初めから放棄している」と批判。安倍首相に対しても「『自民党は結党以来、憲法改正を掲げてきた』と述べたが、遊説先でも堂々と訴えるべきだ」と注文をつけた。正論である。

 小紙は共産党が過去の暴力革命路線を清算していないことなどから「『民共』では与党へのチャレンジャーとしての枠組みにはならない」ことを指摘した。

(堀本和博)