経済低迷の主因「増税」支持の各紙に「再延期」批判の資格はあるのか
◆首相に手厳しい各紙
主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の熱気やオバマ米大統領の歴史的広島訪問の興奮もどこへやら、最近のマスコミの関心は専ら消費税増税の再延期問題でいっぱいという感じである。
無理もない。広島から東京に戻った早々に、安倍晋三首相から政府・与党へ消費税増税延期の意向表明があり、与党内で調整が本格化。国会会期末の1日に首相による正式発表となったからである。
伏線はあった。サミットでの安倍首相による各国首脳へのリーマン・ショック級の経済危機の説明である。
ただ、こうした首相のやり方には、保守系の読売でさえ「リーマン・ショックを引き合いに出すことには違和感がある」(5月31日付社説)と苦言を呈した。同日付で社説を掲載した他紙の見出しも、「首相は国民に説明尽くせ」(産経)、「首相はまたも逃げるのか」(朝日)、「税の議論をゆがめるな」(毎日)と手厳しい。
それでも、同日付の読売社説「『脱デフレ』優先の説明つくせ」は、首相がこうした見解にこだわるのは、「リーマンや東日本大震災級の出来事がない限り、予定通り増税する」と繰り返してきたため、「アベノミクスが失敗したとの批判に反論する狙いもあろう」と事情を推察する。
◆増税の悪影響認めず
同紙はアベノミクスが、長く低迷を続けた日本経済を浮揚させたのは事実として、アベノミクスを一層強化し、成長基盤を底上げしようとする政策の方向性は間違っていないと支持し、「安倍政権が目指す『経済の好循環』の実現が遅れている状況や、世界経済の下振れが国内経済に与える影響などについて、率直に語ることが大切だ」と強調する。尤(もっと)もな指摘である。
ただ、同紙が挙げる経済の好循環の実現が遅れている理由は、既に明らかと言っていい。それは、デフレ脱却の途上にもかかわらず14年4月に実施した消費税増税である。アベノミクスで誤りがあるとすれば、これが唯一の大きな誤りであった。
アベノミクスは当初、大胆な金融緩和と機動的な財政政策により、読売の指摘通り、円安・株高の進行で国内需要が回復し、春闘での賃上げもこれまでにない上昇率となり、勢いを見せ始めていた。その勢いを消費税増税が見事に潰(つぶ)してしまったのである。
朝日や毎日をはじめ保守系の読売、産経、日経でさえもその事実をはっきりと認めない。認めないというより、認めにくい事情があるというべきか。各紙とも消費税増税を財政再建上または社会保障費の安定財源確保のために不可欠と強調し、積極的に実施を求めていたからである。
その結果が、大方の想定以上に長引く、消費を中心とした内需の低迷であり、そのために最初の増税延期に至ったのである。しかし、それでも中国など新興国の経済減速が重なり、日本経済は牽引(けんいん)役不在の足踏み状態が続いているわけである。
消費税増税の再延期により、各紙が指摘するように、増税で当てにしていた社会保障の充実や財政再建目標が遠のく恐れなど問題点も残されている。「国民に説明つくせ」(産経見出し)と迫った内容である。
◆デフレ脱却への決断
しかし、では規定通り、消費税増税を実施した場合、財政再建目標の達成に問題はないのかどうか。首相の懸念は、端的に言えば「増税で景気が悪くなり、税収が減っては元も子もない」である。消費税増税により消費税収は増えても、景気がさらに悪くなることで他の税目の所得税や法人税などが減少して全体の税収が減少すれば、逆に赤字は増えることになるからである。
今回は増税によるダメージを緩和するため軽減税率が導入されることになっているが、それでも4兆円強のデフレ効果である。
14年の増税でも、1997年の増税時と同様、影響の深刻さを見誤った。今回増税が延期されなければ、経済が低迷状態の中での実施となり、デフレ脱却どころではなくなるのは十分に想像がつく。谷垣禎一自民幹事長が「非常に重い決断。進むも地獄、退くも地獄という世界だ」と延期を苦渋の決断で考えざるを得なかったとの認識を示したのも肯(うなず)ける。増税を支持し勧めた新聞に首相を批判する資格はあるのか。
(床井明男)