アジア新興国の成長で技術立国の地位が揺らぐ日本の姿を示す各誌

◆日本劣勢示すダイヤ

 先日、日本で女子バレーボールのリオデジャネイロ五輪世界最終予選があった。全体で4位以内に入れば五輪に出場できるというものだった。当初、難しいものではないという予想が、蓋を開けてみれば韓国には惨敗、タイには辛勝のありさま。結果的に3位で出場枠を獲得したが、今やスポーツの世界でもアジア各国で力の差がなくなっていることを印象付けた。

 こうしたアジア新興国の急進は、スポーツに限らず経済分野においても見られるのは既に知られるところ。韓国のサムソンやLG、台湾のホンハイなどは今や日本の有力企業をしのぐ強敵となっている。

 こうした中で日本企業の転落を企画特集したのが、週刊ダイヤモンド5月21日号の「背徳のシャープ 液晶敗戦の全顛末」である。シャープは液晶テレビに代表されるように日本の家電メーカーの一角を占める存在であった。創業100年という大手家電メーカーの台湾企業への“身売り”は大きな衝撃を与えただけでなく、技術立国・日本というイメージを根底から覆しそうな“気配”を感じさせるには十分だった。

 同号では、老舗シャープのこれまでの歩みからホンハイの傘下に至るまでの経緯が事細かく記載されているが、特集の一角に気になる記事があった。それは有機ELについてである。有機ELとは特定の有機物に電圧を加えると熱を出さずに発光するのが特徴。大型ディスプレーや電子ペーパーなどでの利用が期待されている。

 その有機ELに対して同号では「シャープが世界に先んじて液晶パネルを開発してきたおかげで、液晶部材では日本企業がいまだに競争力を維持している。…。(液晶部材を生産している日本の)メーカーは日本勢以外にも部材・素材を供給しているため、日の丸液晶が敗北を喫しても影響が限定的だ。…。(しかし)有機EL の普及が進めば、部材でも日本勢は劣勢に立たされることになる」と危機感を募らす。

 有機ELについては現在、サムソンやLGなどの韓国企業がリードし、「製造装置を韓国勢に抑えられている」(宇野匡・IHSテクノロジー上席アナリスト)現状にあって、今後液晶から有機ELへのシフトが進めば、家電分野における日本の技術的優位が揺らぐ可能性があるというのだ。

◆東洋は論文数で警鐘

 ところで、こうした日本の技術力を支えるのが大学や研究機関を中心とする日本の理系集団である。この理系集団に焦点を当てて週刊東洋経済が4月30日・5月7日合併号で特集を組んでいる。「理系社員 サバイバル白書」がそれ。リードには、「技術立国ニッポンの立役者だった理系社員(=技術者)が揺れている。事業が丸ごと消える電機メーカーのリストラは技術者に容赦ない。理系社員もサバイバル時代が始まった!」とある。

 ここで注目すべき指摘は「日本の大学の研究力は地盤沈下が著しい」ということ。同号で登場した鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長によれば、日本の学術論文数が惨憺たる状況で、とりわけ「工学の論文数が著しく減少している」と述べる。豊田学長はトムソン・ロイター社の学術論文データベースを基に分析しているが、2000年ごろまでは「日本は米国に次いで世界第2位を誇っていたが、その後、主要国が論文数を増やす中で減少に転じた。…。それでは、論文の『質』についてはどうか? 論文の質を測る代表的な指標の一つとして『被引用数』がある。…。日本はほかの国に追い越されて、現在10位になっている。注目度の高い論文については、韓国に追い抜かれているばかりでなく人口がはるかに少ないシンガポールにも追い抜かれているのだ」と悔しさを滲(にじ)ませる。

 とりわけ日本と韓国の論文数を人口比でみると圧倒的に韓国が多く、「今後、日本は工学系の研究基礎力を高めないかぎり、韓国に追いつくことは不可能であろう」(豊田学長)と韓国の異常なまでの力の注ぎようと安穏としている日本の姿勢に警鐘を鳴らす。

◆侮り禁物の中韓工業

 週刊東洋経済は同号で、「中国や韓国の工業製品を日本の物まねと侮っていると、じきに足をすくわれるだろう」と喚起を促すが、気が付いてみればアジア各国がはるか前方を走っていたということにもなりかねないのである。

(湯朝 肇)