トランプ現象に理屈通じないと時事放談で指摘した訪米後の石破氏
◆日米とも不安抱える
原子爆弾を投下した米国の現職大統領が、被爆地・広島を訪問した意義深いイベントで、伊勢志摩サミット関連の日程は締めくくられた。大戦で敵対した最悪の関係を乗り越えた日米の和解と同盟深化を内外に示したのだ。
しかし、一方で両国の底流に不穏な感情が渦巻いている。米国では、大統領選挙の共和党候補指名確実なドナルド・トランプ氏が、日本など同盟国を揺する暴言で支持を伸ばし、当選の可能性を否定できなくなった。日本では、サミット前に沖縄で米軍属のシンザト・ケネフ・フランクリン容疑者(32)がうるま市の会社員・島袋里奈さん(20)を暴行目的で殺害し、遺体を遺棄した事件が起き、反米反安保の火に油を注いだ。
この問題を番組冒頭で取り上げた22日放送のTBS「時事放談」に出演したのは、地方創生相・石破茂氏、元財務相・藤井裕久氏。トランプ氏について番組は新聞各紙の切り抜きからオバマ大統領、ケリー国務長官らの批判や、大型連休中に訪米した石破氏が行った“安保ただ乗り”論への反論、片や米世論調査で民主党候補に指名されるであろうヒラリー・クリントン氏と支持率が拮抗し、来日したブッシュ前大統領は勝敗を五分五分とみる記事などを紹介した。
一連のトランプ発言について、石破氏は「何言ってんだという論調が少し前まであったが、私も米国へ行ってみて、これは違うなという感じをすごく持ちました」と、認識が改まった様子。「オバマ大統領でも何も変わらなかったじゃないかという閉塞感がすごくある。理屈から言えば、日米安保条約というのは極東の平和と安全が両国の共通の関心事項と書いてある。理屈はそうだが、そういう理屈が分かっている人が批判をすれば批判するほど支持が上がっていくというのは、批判をしている人たちは何をしてくれたのだということ」と述べ、理屈が通じない状況に分析の必要を説いた。
これに藤井氏は、米国内が経済格差により不安定になり「外に敵を作る」動きを指摘。ただ、対策に打つ手があるか気になるところだ。現職閣僚で安保通の石破氏をして、戦後米国の主導で構築された日米関係の基本(安保条約)を納得させる難しさを訪米先のトランプ現象に感じたのは重大だ。石破氏はワシントンで発言した「日米安保条約をちゃんと読みましょう」との言葉を番組でも強調したが、反論した立場から見て「トランプ氏の議論が分かりやすい危険」を感じている。
◆犯人より基地に矛先
シンザト容疑者の女性殺害事件について、石破氏は「極悪非道の許されざる犯罪。……日本の法に基づいて厳正に処罰されなければならない」と訴えた。同感である。藤井氏は、「沖縄は常に虐げられている。……翁長さんの言うことは正しい。問題を翁長さん的に捉えてほしい」と、翁長雄志沖縄県知事への同調を促した。
翁長氏は事件について「綱紀粛正や再発防止は何百回と聞かされたが、何も変わっていない。米軍基地があるが故の犯罪だ」と述べ、容疑者は日本側に拘束されているが、「日本の独立は神話だ」と日米地位協定を批判している。
同日放送のTBSの報道番組「サンデーモーニング」も冒頭で事件を扱い、出演した姜尚中東京大学名誉教授、萱野稔人津田塾大学教授らは日米地位協定の「不公平」に原因ありとし、谷口真由美大阪国際大学准教授は「基地があるが故の事件なので参院選で争点にしないといけない」と述べるなど、基地問題としての談話だった。
事件は凶悪な性犯罪そのものよりも極めて政治的になっている。例えば、昨年8月に寝屋川市で中学生男女生徒が犠牲になった性犯罪事件では、犯人の家庭環境、犯行歴、専門家の心理鑑定が報じられ、ミーガン法も論議されたが、今回は米軍基地周辺の反対派のデモが目立った。
◆人心から犯罪防止を
が、性犯罪のような犯罪は人心の乱れに起因する。日米の政治を動かすエネルギーを同時に人心からの社会健全化、犯罪の起きにくい地域社会の信頼構築にも向けなければ成果は出ない。トランプ氏は移民を「強姦犯」と呼んで国境に壁を築けと選挙で叫び批判されたが、米軍排斥も同じ理屈だ。人がいなければ犯罪はなくなると言うに等しい。
しかし、トランプ現象に似た状況も懸念される。「何百回と聞かされた」綱紀粛正、再発防止策だが、それでも人間社会には綱紀粛正、再発防止策を何百回と繰り返すしかない。
(窪田伸雄)