日露首脳会談「新たな発想・アプローチ」が意味不明で各紙低い期待

◆腰を据えた産経主張

 「守るべき原則を大切に」が朝日、「『新発想』でも原則堅持を」が産経。いずれも8日付社説(主張)のタイトルである。安倍晋三首相が6日にロシア南部ソチでプーチン大統領と会談し、北方領土問題の解決に向けて、これまでとは違う「新たな発想に基づくアプローチで交渉を進める」ことで一致したことについて論じた。

 タイトルから分かるように日頃、両端に分かれることの多い両紙の論調が同じようになった数少ないケースと言えよう。交渉の行方に懐疑、警戒感を滲ませているのは「新たな発想・アプローチ」が具体的にどういうことなのか、不透明だからである。外交交渉の中身を明かせないことがあるのは分かるが、発表された「新たな発想」という文言以上のことは何も分からない。関係者も分かってはいまい。分かっているのは両首脳だけだ。

 そうなると、どうしても原則を確認して念押ししておきたくもなる。安倍首相の政策を支持することの多い産経は、堅持すべき原則について「北方領土は先の大戦の終結前後に、ソ連が当時有効だった日ソ中立条約を破り、武力で不法占拠したものだ。4島返還を求める姿勢を崩すことは、主権の放棄にほかならない」とクギを刺した。その上で、いまロシアが日本や欧米からの制裁理由であるクリミア半島(ウクライナ)併合の暴挙についても「併合は『力による現状変更』であり、北方領土と同根の暴挙である。対露の経済協力には慎重であるべきだ」と、しっかり腰を据えた領土交渉を求めたのは妥当である。

◆原則・慎重説く朝毎

 安倍首相には日頃、対決姿勢の目立つ朝日は、終戦前後の日ソの歴史には触れていないが、米欧との連携からウクライナ問題を見据える中で領土問題の原則に触れている。「守るべき原則を忘れてはならない。領土問題などでの『力による現状変更』を許すことはできない。この普遍的な理念をともにする米欧などと緊密に連携してこそ、ロシアとの対話も成果をあげられる」と説く。そして首相がウクライナ問題でプーチン氏に「ウクライナ政府と親ロシア派との停戦を決めた『ミンスク合意』の完全履行を求めたのは当然のこと」と支持。首相にはソフトなタッチで「新たなアプローチ」が何を意味するのかを含め領土問題の解決への「基本的な考え方について、できる限り国民に説明し、理解を広げる努力」を求めている。

 「新たな発想に基づくアプローチ」の意味するところが不明瞭であるため、各紙論調(いずれも8日付)の期待値は低い。どこも日露首脳会談について明確な評価を避け、まずはお手並み拝見とばかりに慎重に交渉の継続を見守る姿勢である。

 最も評価する表現の日経にして「日本とロシアの関係を改善する突破口にはなっただろう」と記す程度で「ロシア側に妥協を促すには首脳対話の継続が欠かせない」とありきたりの論を言うだけでは締まらない。

 これに対し毎日は、これまでの交渉で「日本側は四島が『日本の固有の領土』であると主張」し、ロシア側は「四島が『第二次世界大戦の結果、ロシア領になった』と強引に領有を正当化してきた」と解説。その上で「安倍首相が4回続けて訪露するのは外交上異例」「強固な日米関係と主要7カ国(G7)の結束という大前提を崩してロシアに接近するという選択肢が日本にないことを改めて確認したい」と、慎重な姿勢での交渉を首相に求めた。

◆領土問題が露に利益

 識者の中には「日本が領土返還を求め必死に経済協力などを進めると、ロシア側は、領土問題を永遠に残すことにメリットを感じるのではないか」(袴田茂樹氏・産経「正論」11日付)との指摘もあることに留意する必要はあろう。

 冒頭で「長年、膠着状態が続く領土問題を打開する一歩となるのだろうか」と懐疑的に問う読売は、ウクライナ問題などに絡めて「ウクライナ、シリア情勢を巡って、首相がプーチン氏に対し、両国内の停戦維持に影響力を行使し、建設的な役割を果たすよう求めたのは適切」だと支持した。

 小紙は、首相がプーチン氏に8項目の経済協力プランを提示したのは「停滞する北方領土交渉を前に進めるため」で「ウクライナ問題を受けた欧米の対露経済制裁に足並みを揃える中での苦渋の選択」だと分析。ロシアとの対話で「北方領土交渉を加速するだけでなく、ウクライナ問題の解決をロシアに強く働き掛ける」ことを求めたのである。

(堀本和博)