確執や勢力図を強調し焦点ぼやけるダイヤモンド誌「日本の神社」特集


◆神社界の実態を紹介

 世界を揺るがす国際的な事件や経済事象に宗教が大きく絡んでいるとはよく指摘されることである。現在の中東で起こっているIS(「イスラム国」)問題しかりで、イスラム教の教義や歴史、さらに、それらを前提にした生活習慣等を理解しなければ、事件の持つ本質を見失ってしまうだろう。

 一方、宗教にそれほど関心を持たない人が多いとされる日本にとってキリスト教やイスラム教は理解しにくいものであるが、それでは身近な神社や寺院についてどれほど知っているだろうか。近年、“歴女”“仏女”と呼ばれる歴史や仏像に関心を持つ若い女性が話題になっているが、それもある意味では、日本人の宗教への無関心が生んだ現象といえる。

 そうした中で、週刊ダイヤモンドが4月16日号で「神社の迷宮」と大きなタイトルを付けて「日本の神社」の特集を組んだ。サブタイトルには、「政界もビジネスマンもなぜ魅せられるのか」となっている。特集の構成は、第1章「ヒエラルキー」、第2章「信仰とカネ」、第3章「政・財・神」、第4章「神職のお仕事」、第5章「初歩から学ぼう」と五つに分かれ、テーマごとに日本の神社の実態を探っていく形を取っている。

 この特集を読めば日頃神社に参拝に行くことのない者でも、日本の神社の概要や組織、さらに神社を取り巻く政界、経済界との関わり、神社が抱える実態をかなり詳しく知ることができる。

◆唐突な印象を与える

 例えば、神職には特有の名称が付けられている。その一つに禰宜(ねぎ)あるいは権禰宜(ごんねぎ)という役職がある。仕事は宮司の補佐で、一般企業に例えるなら部長クラスだ。また、権禰宜は禰宜の補佐役で、課長に当たる。特集ではそうした一神社の組織図から近年、神社が抱える財政事情や雇用状況を紹介。「氏子が高齢化、神職の後継者不足、本業の先細り―。今、神社界に身売り・廃業の嵐が吹き荒れている」(同号)と神社の存続問題から明治神宮の神社本庁離脱問題といった神社界の確執・勢力まで事細かく記している。

 ところで経済誌が宗教に関する記事を載せることは珍しいことではないが、唐突な印象を与えることが多々ある。例えば、少し古くなるが週刊エコノミストが3月29日号で仏教について特集を組んだ。特集名は「悩む仏教」で、以前にもこの欄でその内容について論じたが、その時も何故その時期にそのテーマの特集を組むのか理解できなかった。

 ダイヤモンドが今回、この企画を立てた理由として次のように述べている。「5月末の伊勢志摩サミットでは各国首脳が伊勢神宮へ参拝する予定で、日本の神社に注目が集まることだろう。伊勢神宮、明治神宮、出雲大社などの有名神社を中心に、神社界の勢力図を解き明かす」としている。すなわち、5月末の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)に合わせて特集を組んだという。

 ちなみに昨年6月、政府がサミットの開催地として伊勢志摩を選んだ理由として、「三重県志摩市は、東海地方屈指の観光地で、伊勢湾の海の幸が豊富。また、同市の近くには伊勢神宮があり、世界のリーダーに日本の悠久の歴史を伝えるには格好の場所」と述べていた。

◆日本人の精神に影響

 伊勢志摩には日本古来の伝統を有する伊勢神宮があり、その伝統文化を海外の要人に知ってもらう機会にしたいというのが開催地決定の理由であった。地域に密着してきた神社は日本人の精神構造を形成する上で大きな影響を及ぼしてきた。伊勢神宮はそうした日本の神社の一角を占めてきた。

 従って、それをもって今回、特集が組まれたとするのであれば特集の意味が理解できるのであるが、今回の特集では伊勢神宮についてほとんど触れられていなかったのは残念で、むしろ明治神宮や出雲大社など神社界の確執や勢力図といった面を強調しているのは本末転倒といった感が否めない。今回の特集の目的として「神社界の勢力図を解き明かす」ことも強調しているが、それは伊勢志摩サミットとは関係なく、特集の本来的意味が失われる。それだけに、今回のダイヤモンドの特集は焦点のずれたぼやけた印象を受けるのである。

(湯朝 肇)