精子提供で出産するレズビアンの倫理無視に「NO!」と言わない日経

◆現状容認に傾く論調

 同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めて証明書を発行する、東京都渋谷区のパートナーシップ条例を施行してから4月で1年になる。これに合わせて、過去1カ月間は、いわゆる「LGBT」(性的少数者)に関する記事が目立った。その多くは、彼らの権利拡大を促す論調の記事だが、その中で、特に気になった記事がある。日経新聞17日付「かれんとスコープ」だ。

 「LGBT 親になる」との見出しで、女性記者の署名入りだ。なぜ気になったかと言えば、性的少数者と言ってもいろいろある中で、子供が生まれないはずの同性カップル、特にレズビアン(女性同性愛者)の間で子供を産むケースが増えているというのだ。これは由々しき事態である。ところが、この記事は、せっかくの署名ながら、レズビアンの倫理無視の行為に警鐘を鳴らすどころか、現状追認の論調に傾いていた。

 かつて民放のテレビ番組で、「マイノリティーが子供を産んではいけないというのはおかしい」と叫んだレズビアンがいた。彼女ともう1人の女性のカップルは渋谷区のパートナーシップ証明書発行の第1号になった。

 このカップルのように、子供を持つことは自分たちの権利だとしか考えないレズビアンは多いのかもしれないが、彼女たちが出産することの重大さは誰でもちょっと考えれば分かることである。

◆生命倫理で深刻問題

 結婚した男女から子供が生まれるのは自然である。しかし、同性同士の関係からは自然には生まれない。そもそもこれだけ大きな違いがあるカップルの関係を、「相当の関係」としたところに、渋谷区の条例の間違いがあるのだが、それはさておくとして、レズビアンの場合、妊娠する方法は第三者の男性から精子を提供してもらい、それを注射器などを使って自分で体内に入れることが多い。日本では、医師による生殖補助医療は夫婦以外は認められていないからだ。

 だが、この行為は、生命の尊厳と子供の人権をあまりに軽視するものであることは議論の余地がない。また、レズビアン・カップルが子供を妊娠し出産することを認めれば、ゲイ(男性同性愛者)のカップルにも同じ権利を認めるべきだとなり、代理母容認論に行き着く。

 多様性を認めようとの風潮が強まる中で、同性愛者でも同じ人間だから、異性愛者と同じ権利を与え、「同性婚」を認めようという考えを持つ人が、特に若い世代で多くなっている。しかし、そんな人は同性婚を認めることが、生命倫理や子供の人権の観点から深刻な事態を引き起こすことを考えたことがあるのだろうか。

 日経の記事では、4歳の男の子のいる40代の女性のケースを取り上げた。ゲイから精子の提供を受けて妊娠したという。また、友人の女性カップルからの依頼で、迷いながらも精子を提供したという30代のゲイも取り上げた。

 その一方で、記事は自分で精子を体内に入れる行為については「親のエゴ」「衛生上の懸念」、代理出産には「倫理上許されるのか」という反発の声があることを紹介。また、子供が大きくなった時、認知や財産相続の問題などで「トラブルになるリスクは残る」とした弁護士の意見にも触れた。

◆子供の視点欠く意見

 しかし、そのようなリスクよりも子供にとって深刻なのは、自分が両親の愛の結実として生まれたかどうかだろう。なぜなら、それは自己のアイデンティティーに関わる問題だからだ。そうした子供の視点は軽視され、記者が取材した識者の意見は現状を追認するだけだった。

 その1人は神戸大学の青山薫教授(ジェンダー論)で「どんな親の元に生まれた子も差別されない社会にするように親や大人が努力していくしかない」と話す。同性婚推進論者の棚村政行・早稲田大学教授も「生まれている子どもについて出自を知る権利などをどう担保するか日本でも早急な議論が必要だ」というだけだった。

 生殖補助医療の規制が緩い米国では、子供を持つ同性カップルが増えたことも同性婚の合法化の一因になったと言われる。精子提供で自分で妊娠する行為を止めさせようとは言わず現状を追認する姿勢には、出産するレズビアンが増えればその先に同性婚の合法化があるとの思惑があるのではないか。

(森田清策)