厳しい国際情勢を共通認識したG7外相会合を角度付きで論じる朝日

◆核廃絶の理想と現実

 「原爆がもたらした被害に触れた経験を、核兵器廃絶への歩みを加速する原動力にしてもらいたい」(朝日)、「この会合を、核のない世界に向けた確かな一歩にしたい」(毎日)、「『核なき世界』をめざす大きな一歩として実現を期待したい」(日経)、「核兵器を保有する米英仏3か国も賛同し、核廃絶を追求する明確なメッセージを被爆地から発出した意味は重い」(読売)。

 広島市で開かれた米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダと日本の先進7カ国(G7)外相会合が11日に、「核兵器のない世界」の実現に向けた決意を示す共同文書「広島宣言」を採択したほか、昨年に続いて中国を念頭に南シナ海などの状況に懸念を表明した「海洋安全保障に関するG7外相声明」、5月の伊勢志摩サミットに向けて国際的なテロ対策の取り組み強化の方針などを盛り込んだ「G7外相共同声明」などを発表して閉幕した。

 冒頭はG7広島宣言に対して12日付各紙社説が掲げた評価である。「核兵器廃絶」という理想に向かおうという呼びかけは基本的に反対する人はいないから、各紙社説に大きな相違はない。問題はそれを唱えていさえすれば理想が実現するわけではないことである。そこに至るためには立ちはだかる困難な具体的現実と向かい合い、いくつもの大きな壁を乗り越えていかなければならないことである。

◆中露朝に各紙が懸念

 産経(主張・12日付)はそのあたりをあくまでリアルに冷徹にとらえているのであろう。広島宣言には特に意義などを強調せず、外相会合が「唯一の被爆国、日本の働きかけで、米英仏の核兵器国を含むG7の外相が広島の原爆慰霊碑に献花し、原爆資料館で悲惨な被害の実相を知る機会を持った意義は大きい」と認めた。その上で「G7だけでは『核兵器なき世界』はつくれないということ」を指摘。「日本のすぐ隣では中国や北朝鮮が核兵器の増強・開発に走っている。日本の安全保障は今この時も厳しい環境に置かれていることを忘れてはならない」と注文を付けた。

 毎日も「米露の対立によって核軍縮は停滞を余儀なくされ、北朝鮮が4回目の核実験に踏み切るなど核拡散も止まらない。中国も核戦力を近代化させているが、その実態は不透明なままだ」と言及し、理想に向かうどころか核軍縮・不拡散をめぐる世界の状況が深刻なことを認めている。

 こうした理想を見据えつつも、一方で現下の厳しい国際環境に留意する必要を日経、読売も外相声明や共同声明を踏まえて説いている。日経は「中国は南シナ海問題、ロシアはウクライナ危機を引き起こしている当事国だ」とし「多くの問題の行方は、中国やロシアの出方が重要なカギを握っている」と指摘。「G7はさらに中ロへの働きかけを強め」る必要を訴えた。

 読売も南シナ海で「力による現状変更」を加速させる中国について、声明が「名指しを避けながらも、『埋め立て、拠点構築と軍事目的での利用』の自制を求めた」ことを「事態の深刻さについて、日米だけでなく、G7全体で共通認識を持ったことは重要だ」と評価。G7が「東南アジア各国とも連携し、中国に独善的な行動を慎むよう、粘り強く促」していくよう求めたのである。

◆危機感を欠いた朝日

 一方、朝日は歩みの加速どころか核廃絶への理想にわき目も振らずまっしぐらである。世界の現状にも「ロシアは核依存を強める姿勢を見せる。中国は核戦力増強を進め、北朝鮮は核実験を繰り返す」と気のない表現で一応触れてはいるが、産経などにある警戒感、危機感は余り感じられない。

 せっかくのG7広島宣言も朝日にかかると、G7の今後の行動が問われるとした上で「残念ながら、その指針となるべき『広島宣言』は力強さに欠けた」という評価。米国に配慮して宣言に「核兵器の非人道性」という表現がないからだと。「『現実的で漸進的なやり方』でなければ核廃絶は達成できない、とも強調した」ことも気に入らないらしい。

 朝日は依然としてものごとの現状と正面から向き合い、正確にとらえることよりも、とにかく角度を付けることがお好きなようだ。

(堀本和博)