フェミニズム的国連勧告で最高裁に抗い夫婦別姓導入へ誘導する日経

◆頻繁に不適切な勧告

 国連憲章を起草した米外交官アルジャー・ヒスがソ連のスパイだった話は有名だが、創設期の国連で忘れてはならないもう一人の人物がいる。国連人権宣言を起草したエレノア・ルーズベルトだ。

 彼女はフランクリン・ルーズベルト米大統領の夫人。大富豪の家に生まれたが、父はアルコール中毒、母は冷酷で、両親とも早くに死別。祖母に育てられ、英国の女学校に留学し、フェミニストの教師の影響を受けた。

 後に夫ルーズベルトが女性秘書と不倫に陥り、父と夫すなわち男への復讐(ふくしゅう)心に駆り立てられ、フェミニスト(女権拡大主義者)となった。夫の死後、トルーマン大統領によって米国の国連代表に任じられ国連人権委員会委員長に就任、そこを足場にフェミニストらを国連に送り込んだ。

 その系譜にあるのが女子差別撤廃委員会で、「エレノア・チルドレン」の牙城だ。国連憲章には国連と民間団体の間で協議を行い、国連総会や加盟国に勧告できる仕組みがあるが、同委はその一つだ。

 だから、勧告はしばしば脱線する。最たるものが慰安婦を「性奴隷」と定義し日本政府の法的責任などを求めた「クマラスワミ報告」を真に受けていることだ。3月の対日審査では勧告の原案段階に男系男子による皇位継承を女性差別とする内容があり、日本政府が抗議し削除させた。

 産経16日付主張は「いったい、どういう資格で日本という国家の成り立ちにもかかわる事柄に口を差し挟むのか」と呆(あき)れ、不当な日本非難への反論を怠るなと訴えている。もっともな話だ。

◆同姓の合理性が妥当

 だが、日経にとって勧告は金科玉条らしい。女性活躍に男性が果たす役割を考えるという「With M」と題する紙面(3月26日付)で、UNウィメン事務局長のプムジレ・ムランボヌクカ氏のインタビューを載せている。リード文はこう記す。

 「日本では結婚したとき、9割強が夫の姓を選ぶ。働く女性を中心に姓が変わることに不都合を訴える意見は根強い。夫婦別姓を認めない日本の民法規定について、国連が3月上旬に見直しを求めた。最高裁は昨年末、同規定を合法とする判決を出したばかり。日本と国際社会の認識は隔たりが大きい」

 夫婦別姓を取り上げているのだ。インタビューで同事務局長は最高裁判決について「国連ははっきりとした立場をとっている。女性は選択肢を持たなければならない。男女の平等を確かなものにする一例として。国連の女子差別撤廃委員会も同様に女性に選択肢をという明確な立場をとる。日本がそれを尊重すると希望を抱いている」と答えている。

 見出しは「最高裁が夫婦同姓『合憲』」と「『差別的』国連は改善勧告」を並べ、大見出しでは「男女が同じ選択肢を」とし、明らかに「差別的」とする勧告に軍配を上げている。事務局長のインタビューを使って夫婦別姓導入へと誘導しているのだ。

 記事を書いたのは女性記者のようで、同姓を義務付けるのは日本だけとし、「結婚を機に姓を変えるのはほとんどが女性。職場での使い分けに苦労が絶えない。少子化が進み、一人っ子世帯には自分の姓を変えることに抵抗感を持つ人も増えた。夫婦同姓は時代遅れだと批判は相次ぐが、男性の当事者意識は薄い。男性がしっかりと考えることが重要だろう」と忠告する。

 どうやら姓の変わることを不都合とする「働く女性」のひとりらしい。だが、通称使用など工夫すれば不都合は解消できる。最高裁判決が言うように、(同姓は)我が国の社会に定着してきたもので、「家族の呼称を一つに定めることには合理性がある」と考えるほうが妥当だ。

◆世論と乖離した記事

 そもそもわが国は女性に男性の姓を強いているわけではない。民法は「夫または妻の姓を名乗る」と、どちらの姓を選んでもよい。朝日の世論調査では合憲判決を支持するが58%で、支持しない28%を圧倒した(15年12月22日付)。別姓制度が導入されれば別姓を選ぶという人はどの世論調査でも1割強だ。

 こうした事実を事務局長にきちんと説明したのか、疑問だ。かねて日経は夫婦別姓の導入を促してきたからだ。もしかして日経も「エレノア・チルドレン」なのか。

(増 記代司)