外務省「慰安婦」国連説明に「遺憾」で議論を深めたくない朝日の本音
◆国際社会に誤報影響
辞書を引けばすぐ分かるとはいうものの、何となく分かったようでいて、実は正確にはよく分からない微妙な表現に「遺憾」という用語がある。広辞苑には「思い通りにいかず心残りなこと。残念。気の毒。」と出ている。簡単にいえば「残念に思う」という意味になる。
政治や外交上の声明などでよく出てくる「遺憾である」というのは「行われるべきではなかった」という見解の表明である。相手の行為や言動に対する使用であれば批判や非難を伝える表現となり、経営者などが自身や社員の行為について述べたのなら「それは残念ですね」という気持ちの表明とはなるが、謝罪の意味までは含まれない。少し他人事のようなニュアンスとなる。責任逃れの便利な言葉と言えなくもないが、事を荒立てないで収めようという意向を暗示するものであるケースが多いのである。
朝日新聞(19日付)がこの「遺憾である」とする文言を使って外務省に申し入れを行った自社の行為を報じたが、その報道の異様さについては、すでに23日付小欄で増記代司氏が分析と鋭い批判を展開している。小欄でも、重ねて取り上げてみたい。
朝日新聞が外務省に申し入れをしたのは、スイス・ジュネーブで16日に開かれた国連女性差別撤廃委員会の対日審査で、政府代表の杉山晋輔外務審議官が説明した慰安婦問題についての発言に関して。慰安婦が強制連行されたとの見方が流布された原因について、杉山氏は吉田清治氏(故人)が著書で済州島(韓国)で大勢の女性狩りをしたという虚偽の事実を捏造(ねつぞう)して発表したことにあると説明。「(吉田氏の書物の)内容は当時、大手の新聞社の一つである朝日新聞社により事実であるかのように大きく報道され、日本、韓国の世論のみならず国際社会にも大きな影響を与えた」「朝日新聞も事実関係の誤りを認め、正式に謝罪している」などと朝日新聞の過去の誤報に言及した。
◆朝日の対応の選択肢
朝日新聞の申し入れ記事は、吉田氏の証言関連記事を2014年8月に取り消したとする一方で、国際的影響については「朝日新聞の慰安婦報道を検証した第三者委員会でも見解が分かれ、報告書では『韓国の慰安婦問題批判を過激化させた』『吉田氏に関する「誤報」が韓国メディアに大きな影響を及ぼしたとは言えない』などの意見が併記されたと説明。国際社会に大きな影響があったとする杉山氏の発言には根拠が示されなかった」などとして杉山氏発言を「遺憾である」と文書で申し入れたとした。
こうしたケースでの朝日側の対応には次の選択肢があるという。①沈黙・無視、②申し入れ(電話)、③強い申し入れ(文書)、④抗議(訂正要請)、⑤強い抗議(法的措置を視野に入れた訂正要求)――の五つのケースである。実はこれは昔、朝日新聞の幹部から教示されたものだが、その対応側は②だとただ聞き置くだけでいい。③では「遺憾」程度の回答、④では具体的に訂正部分の指摘があり、真摯な対応――で大半は解決する。⑤となると弁護士に相談しての対応が必要となるという。
今回の朝日の申し入れへの外務省対応は形式的には③ということになるが、実際には①か②で構わないと言えよう。朝日とて、慰安婦誤報の議論の蒸し返しは望んでいまい。申し入れはいわば「一応、言ってみて」杉山氏発言を承服したわけでない形をとっただけで、あとはこのままやり過ごしたいのが本音であろう。この問題の論議が盛り上がって行けば「30年余も誤報を頬かむりして日本を貶めてきたツケをどうしてくれる」との批判を呼び込むだけで、やぶ蛇となるからだ。
◆読売が提示した根拠
それに「国際社会に大きな影響があった」と指摘した杉山氏発言の根拠を求めているが、「朝日の御用委員会」との批判もあった第三者委員会委員の中からも『韓国の慰安婦問題批判を過激化させた』との指摘があったことを当の朝日記事自体が書いている。加えて、読売新聞(20日付)も「朝日『慰安婦』で申し入れ」の記事で、朝日が自社記事の大きな影響力をPRした特集記事「政治を動かした調査報道」(1994年1月25日付)を紹介。特集記事が「吉田氏証言の報道への反響などにも触れながら、慰安婦問題について『宮沢首相(当時)が韓国を訪問して公式に謝罪し、国連人権委員会が取り上げるに至る』と言及した」と、外務省に代わって根拠を示しているのである。
(堀本和博)





